童謡「しゃぼん玉」は、野口雨情の詞に中山晋平が曲をつけて、大正11年に生まれました。「しゃぼん玉」は作詞者の野口雨情が亡くなった我が子を思いながら作ったという俗説もありますが、いずれにしろこのしゃぼん玉に人生のはかなさと美しさを重ね合わせる人は少なくありません。
この「しゃぼん玉」のように、今に歌い継がれている童謡や唱歌の多くは、大正時代に生まれました。「赤とんぼ」「叱られて」「七つの子」「青い眼の人形」「赤い靴」「花嫁人形」「朧月夜」「この道」など数えきれないほどです。大正時代は「唄の時代」でもあったのです。
今回の展覧会では、私たちに馴染みの深い「唄」をテーマに、大正時代の世相や文化、そして高畠華宵の世界を紹介する展覧会です。
歌はいつの時代にも同時代の世相や文化を反映しています。大正時代に作られた童謡・唱歌・流行歌にもまた、大正時代の世相や時代風潮が映し出されていると考えられます。大正デモクラシー、第一次世界大戦、関東大震災、成金崇拝、人身売買などといった事件や社会変化に困惑した大衆の複雑な心情が、大正リベラリズム、大正モダニズム、大正ロマンティシズムという時代風潮を生み出しましたが、こうした時代の流れに翻弄される大衆の希望や理想、挫折を同時代の唄の中に見出すことができます。
本展ではまた、華宵作品を通して、大正時代の音楽と少女文化の結びつきについて考えます。現代でも、少女文化と音楽とは切っても切りはなせない関係にありますが、こうした現象の萌芽が大正時代にあるように思われるのです。
大正時代の童謡や唱歌、流行唄には、現代ではだんだんと忘れられつつある日本の美しい心や自然が織り込まれています。こうした抒情歌を知らない世代の若者の方は、少し立ち止まって耳をすまして下さい。ご年配の方は、古き良き日々の光景を思い出して下さい。本展を通じて、大正時代の美しい唄と抒情画の世界を、懐かしく美しい日本の心の風景をご覧頂ければ幸いです。