ビカリアは、熱帯~亜熱帯の汽水域、特にマングローブ湿地のような環境に生息していたと考えられている絶滅属の巻貝です。ビカリアの化石は、日本では主として約1800万年~1600万年前の地層から発見されており、特に北陸から山陰にかけての地域と中国地方山間部において多く産出します。ところが、紀伊半島にはその年代の地層(白浜町周辺に分布する田辺層群と串本町~新宮市付近に分布する熊野層群)が広く分布しているにもかかわらず、これまでに確実な産出記録はありませんでした。
ところが、平成18年に串本町在住の左向幸雄氏から寄贈された標本の中に、田辺層群から産出したビカリア化石が見出されたのです。ビカリア化石は3点あり、全て和歌山県西牟婁郡白浜町中の海岸から発見されたもので、約1600万年前のものと推定されます。これらの標本は紀伊半島初のビカリア化石という意味だけでなく、1600万年前の紀伊半島にマングローブ湿地が存在した可能性を示唆するという意味でも大変貴重なものと言えます。