本展覧会は、老若男女を問わず愛される日本美術の至宝「鳥獣戯画」(「鳥獣人物戯画絵巻」)の全貌を本格的に紹介しようとするものです。当館では1999年に「国宝 信貴山縁起絵巻」展を開催、1つの絵巻の全容とその詳細をじっくり紹介する展覧会を実施し、「このような企画を今後も是非行ってほしい」という声を多数いただきました。今回はそうした多くの方々のご要望にこたえると同時に、展覧会を通して「鳥獣戯画」の魅力を日本絵画史・文化史など多角的な視点で探ろうとする初めての試みとなります。
京都・高山寺に所蔵される「鳥獣人物戯画絵巻」は甲・乙・丙・丁の4巻からなっています。これらは当初からセットだったわけではなく、さまざまな改変を経て現在の姿になったと考えられますが、その過程は今なお多くの謎に包まれています。本展では、甲・乙・丙・丁4巻を一堂に展示し、各巻の魅力と特色を浮き彫りにしながら、誰が、いつ、どのような目的で各巻を制作させたのか、主題は何なのか、どんな画家が描いたのか、それらがどうやって現在の4巻にいたったのかなど、これまでの研究成果を踏まえつつ、あらためて「鳥獣戯画」をめぐる謎に迫ってゆきたいと考えています。
「鳥獣人物戯画絵巻」4巻の中で最も良く知られているのは、動物たちがユーモラスかつ表情豊かに描き出される甲巻でしょう。この巻もまた幾度の改変を経たと考えられ、錯簡、逸失が認められます。幸いにも、本巻と一具をなしていたと考えられる断簡、ならびに現在の甲巻には見られない場面が含まれている模本類が現存しており、本展ではそれらもあわせて展示し、甲巻の現状を可能な限り復元することができればと考えています。この試みを実現させることで、本絵巻の研究に寄与することのできる、学術性の高い展覧会になると同時に、一般の鑑賞者にとっても知的好奇心が刺激される機会になれば幸いです。
また、「鳥獣戯画」の特色として挙げられる諸要素-線描表現、ユーモア性、動物の擬人化など-は、古くから今にいたるまで、日本の造形文化に広く見られる特徴でもあります。本展では、「鳥獣戯画」の魅力を多面的に捉えながら、それぞれの系譜に連なる作品を集め、「鳥獣戯画」を基軸として垣間見えてくる日本文化の本質に迫ります。