ますむらひろしは、1973年「霧にむせぶ夜」(週刊少年ジャンプに投稿、手塚治虫賞準入選)で漫画家としてデビュー、1975年からは月刊漫画ガロで「ヨネザアド物語」を発表し、翌年には「アタゴオル物語」等、徐々に独自の空想的な世界を漫画作品として描きはじめます。その後、漫画家としての発表の媒体が、それほど多くは無かったにも関わらず、ますむら作品は多くの読者に支持され、やがて大手企業のCM等のキャラクターに起用されるなど次第に幅広い人気を得てゆきます。これは通常、漫画が大ヒットする例とは異なる成功例と言え、ますむらが、独自の世界「アタゴオル」シリーズなどをある種自由な発想で描き、長く発表し続けてきたことが一つの要因と言えます。その結果、異才の漫画家が創る独創的な世界は、月日を経て行く中で多くの人々を魅了することとなり、ますむら作品は現在でも読者の間で連鎖的にそして静かに広まり、新たなファンを獲得し続けています。
その一方でますむらの一種卓越した作風の根底には、自身が敬愛し、影響を受けた宮沢賢治の世界があります。ガラス細工のように繊細な賢治の童話の世界を、ますむらは独自の観点と画風で見事に描き、読者はもちろんのこと、賢治の研究家の間でも高い評価を得ています。
本展覧会では、読者主導の根強い人気を得ている、ますむら作品の魅力を余すことなく紹介。数多くの原画をはじめ、作品設定資料を通して「ますむらひろしの世界」の魅力の秘密に迫ると同時に、文学的漫画と評される、ますむら作品を通して宮沢賢治の世界の魅力を再発見する初の試みです。