時は、20世紀初頭-数多くの芸術家が、夢を抱き、光を求め、世界各地からパリに集まりました。今からちょうど100年ほど前のことです。彼ら異邦人の多くは、フォーヴィスムやキュビスム、ダダ、シュルレアリスムといった当時パリを中心に興った特定の流派や運動に属することなく、貧困と愛と不安と昂揚を糧として己の信じる芸術を一心不乱に貫きました。その夢と煩悶に満ちたエコール・ド・パリ(パリ派)の画家たちの放埒な生きざまを象徴するのが、アメデオ・モディリアーニ(1884-1920)です。
イタリア、トスカーナ地方の港町リヴォルノに生まれたモディリアーニは、22歳の時、彫刻家となる大望を抱いてパリに渡ります。のちに絵画に専念し、憂愁をたたえた独自の画風で次々と傑作を描き出しましたが、富には恵まれず、また幼少の頃からの肺病に苦しみ、それらを紛らわすかのように酒と麻薬に溺れ、ロマンスを重ねる日々を送っていました。そのなか、ひとりの才能豊かな若く美しき画学生と出会います。ジャンヌ・エビュテルヌ(1898-1920)です。ふたりは恋に落ち、ほどなく生活をともにしましたが、その暮らしはやはり苦しいものでした。南仏ニースの穏やかな陽光のもとに静養するなどゆるやかに時間を過ごすこともありましたが、ささやかな幸せもつかの間、持病が悪化し、モディリアーニは35歳の若さでこの世を去ってしまいます。そして、その死の2日後、悲しみに暮れた妻ジャンヌは、新たな生命を宿しつつもアパルトマンの窓から自ら身を投げモディリアーニの後を追いました。
本展では、モンパルナスの片隅に刹那に咲いたこの愛と悲劇を、ジャンヌの遺族が秘蔵していたコレクション(日本初公開)を中心に、モディリアーニ、ジャンヌそれぞれの油彩、水彩、素描作品と写真や書簡の資料によって紐解きます。