吉本政幸は現在の版画界において人気と実力を併せ持つ稀有な作家の一人です。版画歴をたどると、年賀状で作っていたのがそもそもの始まりで、本格的に制作するようになったのは34歳のときに、日本版画会の朝井清に師事してからです。師は浮世絵の手法でしたが、画論や制作のイロハについて厳しく教示を受けました。
当時の吉本にとって木版画は、未開拓な部分が多いだけに、新しい可能性が残されていると感じた分野でした。彼は梠ベニヤ、ラワンベニヤを多用し独自の技法で木版画の世界に新しい表現を切り開きます。その作品は具象でありながら、奥深い色彩美で、まどろむような魅力があり、画面上は、ものの輪郭をたどりながらも、図と地が相互に響き合うような抽象的な構成に工夫がなされています。
その後、吉本は常勤の職を持ちながら、日本版画会の会員・審査員を務めるようになります。しかし、師の教えを守って常々努力を怠ることはありませんでした。
近年は、髪の毛こそ白い氏ですが、おおらかな飾り気の無い無垢な精神で、今なお若々しい作品を作り続けています。
宝石のような書票や、大型の屏風を揃えた、吉本政幸の札幌では初となる個展です。