藤笠さんは東京芸大大学院の研究生です。伝統工芸の盛んな中で、何か自分だけのものを表現したいと考え、彫刻科の交換授業を受けるうちにこうした作品が生まれました。
このシリーズのきっかけとなったのは、故郷山口県の秋吉台鍾乳洞をモチーフにした作品ですが、それは円柱形で、長い時間をかけて滴り落ちる鍾乳石のイメージを複雑な土肌のニュアンスで再現し、クラシカルな中にも凛とした涼やかな感覚が見られました。藤笠さんの作品は、このように動いている力や流れをイメージした、自然の造形の美しさがテーマとなっています。
今展の全体のイメージは「風の吹く場所」。出品作の1点「風」は、アメリカの国立公園の岩をモチーフに制作されました。鉄砲水がどんどん流れて、岩が削り取られ、そこに風も吹き抜け、岩はどんどん変わっていく。その自然のつくり出す流線型に感動して生まれました。そして、もう1点「滝」は、滝がさあっーと上から流れてきて、その下に静かに吹く風がモチーフとなっている作品です。
藤笠さんのタイトルに登場する「風」は、ただ吹く風だけでなく、いつも流れの中にある風です。人も必ず流れの中で生きている、生きるのは楽しかったり、辛かったり、そういうものとリンクさせながら制作をして、見る者に感動を与えられたらと考えています。9月のガレリアセラミカに吹く風はどんな風でしょうか。