ピピロッティ リスト: からから

    原美術館 | 東京都

    ─私たちの生活する空間は、社会慣習が私たちに思いこませているよりも じつはずっと広くて、風通しのいいところだと思う─ (注1) 新しい美術を作り出す原動力は多くの場合、既存の美術や社会に対する不満や反感などの否定的な衝動であったように思われます。中でも、20世紀初頭に生まれたチューリッヒ ダダは、合理主義的な近代社会がもたらした悲惨な現実に対する反発として始まった運動でした。ダダイストは、言わば、目の前に立ちはだかる壁を壊して新たな創造を試みた作家ですが、現在、彼らと同じチューリッヒに制作拠点を置くピピロッティ リストは、壁をよじ登って新たな地平を見ようとする作家であるといえるかもしれません。なぜなら彼女は、「物事のポジティヴな面を見るようにしている」(注2)と度々語っており、視点を変えることで既存の価値観と折り合いをつけつつ、それでもぶつかりもがく自分の無様な姿そのものを生きる証として肯定し、形にしようとしているからです。 このようなリストの作品は、ピンクやオレンジといった明るく可愛らしい色彩を多用し、“動く水彩画”のような瑞々しさに溢れる映像や、女性好みのピンクや赤の革張りソファーを用いたインスタレーションなど、一見、とても軽やかに感じられますが、一方で、映像のモチーフは極度にクローズアップされ、歪んでグロテスクでもあり、決して目に心地良いものばかりではありません。時に登場人物は狂ったように歌い、極度の緊張に達し、失神したかと思えば立ち上がり、穏やかになったかと思えばまた倒れるといった不可解な行動を繰り返したりもします。しかし、その姿はどこか滑稽で微笑ましく、またそれを優しく見つめる外部の眼差しも感じられます。恐らくはリスト自身のものであろうその眼差しは、いつしか作品を見ている私達の眼差しとなり、不可解な人物や状況を優しく見守っています。もしかしたらそんな一人一人の優しい眼差しの集積が、壁を乗り越えるための足場になっていくのかもしれません。自身の心や身体に満ちる様々な思いや感覚をひとつひとつ丁寧にすくい上げながら、それを形にしていくピピロッティ リスト。彼女の姿と作品に、性別も世代も人種も国境も関係なく、多くの人々が共感を覚えることでしょう。 (注1)「ピピロッティ・リスト:両手いっぱいの願い事を」、『美術手帖』774号、pp.202-211、1999年、美術出版社 (注2)Pipilotti Rist: Friedrich Christian Flick Collection, p.7, 2005, Dumont など
    会期
    2007年11月17日(土)〜2008年2月11日(月)
    会期終了
    開館時間
    ※予約制。詳細は公式サイトへ。
    料金
    一般1,000円、大高生700円、小中生500円(原美術館メンバーは無料、学期中の土曜日は小中高生の入館無料、20名以上の団体は1人100円引)
    休館日 月曜日(祝日の月曜日は開館)、12月25日~2008年1月4日、1月15日
    会場
    原美術館
    住所
    〒140-0001 東京都品川区北品川4-7-25
    03-3445-0651
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