いまから1300年ほど前、「出雲国風土記」が書かれたころのことです。日本の中心地は奈良にあり、政治や行政の権限が一極に集中した中央集権国家の時代でした。ここ島根県地方は出雲・石見・隠岐という3つの国に分かれ、同じ日本海側の鳥取や兵庫・京都の一部をもあわせて山陰道でくくられていました。
下って130年ほど前の明治時代に、いまの行政単位である島根県が誕生します。面白いことに島根県はいまもこの旧3国に相当する地域に大きく分かれて強い地域色がみられます。この個性はと考えると、先の古代律令制の導入による地方行政の枠組みが大きく影響しているように思われます。
本展覧会では、この時期を地域形成の画期と捉えながら、当時の地方制度がどのような仕組みのものであったか(第1章~第2章)、また出雲国がいつどのようにしてできたのか、あるいは出雲国が律令制を導入する中、どのような特色ある地域を形成していたのかをみようとするものです(第3章~第5章)。
いわば前者が奈良時代の出雲国の入門編であり、後者がその誕生のプロセスや地域色を問題にした応用編とでも言えるでしょう。こんな風に紹介すると、なんだか小難しそうで敬遠されるのかもしれません。でも、ここは一度展示会場をご覧になってください。意外と知らない古代の島根や山陰の姿が、最新の調査研究の成果も踏まえてかいま見えるものと思います。
それともう一つ大きな見どころをご紹介します。くしくも来年は奈良に都が置かれてからちょうど1300年目に当たります。奈良時代を取り上げた本企画展に、特別コーナー「平城京・正倉院宝物・古代銭貨」を設けます。当時の政治の中心地・平城京跡の発掘品や、天平文化の香り漂う正倉院宝物(模造品)、さらには皇朝十二銭で知られる古代銭貨の一大コレクションが展覧されます。この機会に是非、1300年前の出雲を、そして奈良をのぞいてみてください。