1929年に目黒区自由が丘にアトリエを築いた岡田謙三(1902‐1982)は、当館のコレクションの中でも目黒を代表する重要な作家であり、作品9点と、制作に関する資料を蒐集しています。
本展では、岡田謙三と、岡田と親交のあった自由が丘界隈に居を構えていた作家や、広く目黒界隈に住む作家たちの作品について、収蔵品を中心に構成し、「目黒」という地域と作家達を巡る「文化縁」をさぐっていくものです。
目黒は、江戸時代には将軍の鷹狩の場として知られた、市中から離れた農村地でした。その後、大正時代に開通した東京急行により新しい文化がもたらされ新興住宅地として発展した地域を有しています。特に自由が丘付近には広範囲にわたり、画家や彫刻家、小説家など、新しい考え方を持つ文化人が多く移り住むようになりました。
岡田の自由が丘のアトリエには、その人柄に惹かれて多くの作家たちが集まり、いつもにぎわっていたといいます。画家仲間では、同じ目黒にアトリエが残る古茂田守介、一時期目黒に居をかまえていた荻須高徳、海老原喜之助らがよく訪れていました。この自由が丘には、その名前の由来にもなった「自由教育」を掲げた「自由ヶ丘學園」が1920年代の後半に設立され、同時期に、モダンダンスを広めた舞踊家石井漠も「舞踊詩研究所」を開設するなどモダンな街が形成され、1930年以降、文化人たちの盛んな交流がおこり、岡田と石井もその中で親交を結びました。
一方、目黒周辺には工業デザイナーや建築家も多く居を構えていました。2011年に当館で回顧展を開催した秋岡芳夫。そのほか工業デザイナーの山田正吾、佐々木達三、由良玲吉、建築家では、山脇巌など。本展では、絵画彫刻のほかにも、こうした広範囲に活躍したモダンな住人についても触れていきます。