四谷シモンの作る人形は静かな人形である。すっくと立ち、遠くを見つめるように佇む。その人形と向き合うことで、見る者は静謐な時間を共有することができる。
人形作家、四谷シモン(1944−)。
日本における球体関節人形の第一人者であり、国内のみならず海外からも高く評価されています。
東京・五反田で生まれたシモンは、タンゴの楽師である父、ダンサーの母という芸能一家で育ちました。留守がちな両親がお土産として買ってくれた人形が幼少期の思い出であり、両親不在の寂しさを紛らわすかのように、シモンは小学生の頃から人形を作り始めます。10代半ばで人形作家・川崎プッペを訪ね、水上雄次に弟子入りし、制作技術を磨きながらも、当時の布を纏った小さな彫刻のような人形に疑問をいだき、常に「人形とは何か」を模索していました。
1965年春、20歳のシモンは古書店で偶然手に取った雑誌『新婦人』で、ドイツのシュルレアリストであるハンス・ベルメールの球体関節人形の写真に、強い衝撃を受けます。従来の人形はポーズをつけることで、人間の感情や思いを形象化する一方で、人形が表現するものは固定されたポーズの範囲にとどまってしまっていました。しかし関節が動く球体関節人形はポーズをつける必要がないため、表現が固定されるという苦悩からシモンを解放したのです。そして人形とは「人のかたち」であり関節で動くもの、人形とは人形そのものであると悟り、以後、独学で球体関節人形の制作を始め、新しい人形表現の地平を切り拓きました。
本展覧会では、無垢なるものとしての少年少女の人形、状況劇場時代の女形としての自身を模った《未来と過去のイヴ》、自動人形に挑んだ《機械仕掛の少年》、シモンの人生に多大な影響を与えた澁澤龍彦へのオマージュとしての《天使―澁澤龍彦に捧ぐ》、自己愛を表現した《ピグマリオニスム・ナルシシズム》、未完なものとしての《木枠で出来た少女》など、初期から最新作までの46点の作品を6つに分けて構成し、シモンドールの世界を紹介します。