牧美也子氏(1935-) は、1950年代後半、男性漫画家が中心だった漫画界で、女性漫画家の先駆けとして活躍します。女の子達が憧れる夢のような世界で繰り広げられる、健気なヒロインの成長物語――少女の感情や嗜好を感覚的に理解している女性の感性で描いた作品は、瞬く間に女の子達の共感を呼び、一躍人気少女漫画家になります。その人気振りから、着せ替え人形「リカちゃん」は牧氏の漫画キャラクターをモデルにして作られました。
1960年代後半、30歳を過ぎた頃、牧氏は本当に描きたいもの―大人のリアルな人間ドラマや女性の情念の世界―を描くため、少女漫画から離れ、まだ専門雑誌すら創刊されていなかったレディースコミック(大人の女性向け漫画)を自分の創作の場と見定めます。漫画が子供のための娯楽と考えられていた時代に漫画家となり、子供のための漫画を描いてきた牧氏でしたが、大人の女性が楽しめる漫画の創作に目覚め、意欲を駆り立てられたのです。
やはり気にしていたら前に進めませんからね。やはり描きたいものを優先したくて、この世界が好きなのですよ。
やはり描きたかったし、描こうと思って無邪気に描きました。
――牧美也子(竹宮惠子氏との座談会にて)
丹念に心を込めて描かれた少女漫画、生き生きと想像力を羽ばたかせて描かれたレディースコミック――美しい原画の数々をどうぞ間近でゆっくりとご覧ください。そして一人の漫画家として、女性として、自身の感性を信じて創作に勤しみ、数々の名作を世に送った、牧氏の人となりや生き様に想いを馳せていただければ幸いです。