翻訳家にして直木賞作家、アメリカ通にして時代小説をこよなく愛するエッセイスト、あるいはアメリカの翻訳エンターテインメントを次々と日本に送り出した名編集者――常盤新平(1931―2013)。様々な顔をもつ常盤の根底には、20代の頃から抱き続けたアメリカへの強い憧れがありました。
仙台で幼少期を過ごした常盤は、都会への憧れと、“田舎”や“恥”の象徴であった父親から逃れたい一心で、1950年に早稲田大学へ進学。アーウィン・ショーの短編小説「夏服を着た女たち」を読み、その都会的で洗練された世界に魅了されて翻訳家を志します。同級生が就職していく中、ただひたすらアメリカのペイパーバックや雑誌を読みふけり、アメリカに想い焦がれる日々。この頃を描いた自伝的小説『遠いアメリカ』(講談社 1986年)は、人々がハンバーガーをまだ知らなかった昭和30年代の空気と、青春期の不安や迷いを見事に描きだし、第 96回直木賞を受賞しました。このとき常盤は55歳。すでに翻訳家、エッセイストとして活躍していましたが、この小説を書くことによって父親の深い愛情、自分が翻訳家を志した本当の理由に気づくことになります。作家となってからは、都会の片隅で暮らす人々の心の移ろいや日常の些事を掬いあげるエッセイや小説が多くなりますが、アメリカへの想いは終生変わることはありませんでした。
晩年の約 20年間を過ごした町田で、このたび、初めての展覧会を開催します。本展では、常盤が憧れたアメリカ、彼をアメリカへと向かわせたものは何であったのかを探りだし、愚直に想いを貫いた一人の作家の生涯と作品をひもときます。