子どもたちに数多くのエンターテインメント作品を届け続けている作家・山中恒(1931-)。
山中さんは、本を手に入れることが難しかった戦時下に幼少期を過ごしました。友だちの家をめぐり歩いて軍事冒険物語や怪奇・探偵小説といった大衆的児童読物に読みふけり、さらには大人向けの時代小説や恋愛小説に手を出すほど物語に夢中になりました。戦後、たまたま手に取った宮沢賢治の童話に感動して、自らも子どもの本の作家になることを志し、1950年に早大童話会に入会するため早稲田大学に入学。そこで出会った鳥越信、古田足日、神宮輝夫らとともに転換期の日本児童文学を牽引しますが、次第に訓育主義的な傾向になる児童文学に異議を唱え、独自の道を歩み始めます。
山中さんは児童文学者ではなく「児童読物作家」を自称し、常に目の前の子どもを見つめ、流行を積極的に取り入れながら、その時代を生きる子どものありのままの感情や言動を軽快に描いています。『ぼくがぼくであること』(1969年)、『あばれはっちゃく』(1977年)、『おれがあいつであいつがおれで』(1980年)などの娯楽性の高い作品は読者から絶大な支持を得、映画やテレビドラマなど映像化されたものも多く、幅広い年代に親しまれています。近年では、旧作に手を加えた新装版が出版され、その物語が持つ普遍的なおもしろさに改めて注目が集まっています。また、町田市で過ごした頃に執筆した、戦時下での体験をまとめたノンフィクション「ボクラ少国民」シリーズ(1974-1981年)や、戦時教育・戦時児童文学の研究も高い評価を受けています。
本展では、創作活動の原点から現在までをたどりながら、魅力あふれる作品の数々をご紹介します。物語を通して子どもたちと対話し続けてきた山中さんの、子どもたちへのねがいを感じていただければと思います。