常設展　 北斎の富士 　- 冨嶽三十六景と東海道 -

日本最高峰である富士山は、裾野を広げる雄大な姿や雪を被った清々しい姿など四季折々に変化する姿を見せてくれます。歴史を紐解けば、古くは日本最古の物語文学である『竹取物語』のクライマックス場面として選ばれ、『伊勢物語』では在原業平が山頂に残る雪を見て歌を詠じています。また『万葉集』などでは歌人の心をとらえ多くの歌が詠まれました。日本人は古来よりその姿に愛着や憧憬の念を抱いてきたといえます。富士山は霊峰として信仰の対象ともなり、江戸時代には富士講といわれる富士山詣でが流行しました。浮世絵師たちも富士山を描く作品を数多く制作しています。なかでも葛飾北斎は、彼の代表作ともいえる「冨獄三十六景」で46枚の富士図を描きました。この連作からは「凱風快晴」に見られるような富士山を画面いっぱいに捉えた大胆な構図や、藍色一色で作られた作品に見られる斬新な色使いから、北斎の奇抜な発想力が感じられます。また北斎は歌川広重よりも早く東海道をモチーフとする連作を制作しており、その中でも富士山を描いています。東海道の作品は富士山の姿とともに、道行く人々の姿や風俗も見所になっています。本展覧会では、葛飾北斎の「冨獄三十六景」を中心に東海道を描いた作品とともに江戸や駿州（現在の静岡県）、甲州（現在の山梨県）など江戸時代の国別にまとめて展示します。多様な場面での富士山の姿をご覧頂き、千変万化する「北斎の富士」をお楽しみください。