緑豊かな国際基督教大学(ICU)のはずれに、ひっそりと建つ「一畳敷」。その名のとおり、たった一枚の畳に板縁を廻らせ、床の間と神棚、書棚をしつらえた一室で、およそ130年前に建てられました。この部屋の主は、幕末・明治に活躍した探険家、松浦武四郎(1818~1888)。年若い頃から憑かれたように全国を巡って多くの貴重な記録を残し、また「北海道の名付け親」としても知られています。その見聞の広さから江戸幕府、明治政府に重用されることもありましたが、辞して以降は古物蒐集にいそしみ、東京神田五軒町の自邸で好事の日々を送りました。
一畳敷は武四郎が自らの古希を記念して造った書斎です。建築に際して、かつての旅先で知り合った友人たちに各地の由緒ある社寺や歴史的建造物の古材を請う手紙を書き送り、集まった90もの木片を組み上げて自宅に増築しました。古くは白鳳時代にまで遡るという部材もあり、構えは狭くとも壮大な時間と空間を内包したこの一室で、武四郎は旅に明け暮れた人生を振り返り、人々との思い出を偲びつつ晩年を過ごしたといいます。
自らの死後は取り壊すようにという武四郎の遺言に反して、そのままの形で残された一畳敷は、その後、松浦家から紀州徳川家へ、さらに財閥の重役や飛行機会社社長へと所有者が代わるに伴い、神田から、麻布、代々木上原、そして1930年代には現在の三鷹の地へと三度の移築を重ねました。関東大震災や東京大空襲を免れ奇跡的に生き延びた一畳敷の最後の所有者となったのが、戦後この一帯を開学の地とした国際基督教大学でした。
本展覧会では、今年が松浦武四郎生誕200年となることを記念し、数奇な運命を生き延び、現在、国の登録有形文化財「泰山荘」の一角をなしてキャンパスに保存されているこのユニークな建物を、原寸模型と写真パネルで紹介し、その歴史的文化的重要性をひもときます。