近年、注目を集めている日本の戦後美術。内外の展覧会で「具体」や「もの派」が紹介され、その先進性に改めて光が当たっています。
以前は戦後美術といえば、概ね70年代までの動向に光が当たっていましたが、今年になって状況は一変。本展に先立って、7月には「起点としての80年代」展が金沢21世紀美術館で開催(高松、静岡に巡回)されるなど、80年代の時代の美術も、歴史的な流れの中で考察する動きが見えてきました。
本展は、国立国際美術館のみでの単独開催です。大阪万博の流れを受けて開館した同館は、現代美術を数多く所有。本展も出展作品の約半数が館蔵品と、国立国際美術館ならではの企画展といえます。
会場はクロノロジカル(年代順)の構成。1980~89年までを2年ずつに分け、5つのセクションで紹介しています(図録では1年ずつの構成)。各章では当時の社会状況も紹介する事で、時代性を踏まえて作品を実感してもらいます。
展示作品は78点。作家の年齢層は意外と幅が広く、30年代生まれから60年代生まれまで65名。ほぼ1人1作品です。
戦後の日本美術を説明する際、1950年代は前衛、60年代は反芸術、70年代は「もの派」や概念芸術と、ここまでは傾向を説明しやすいのに対して、全体像を捉えにくい80年代の美術。会場に並ぶ作品の「80年らしさ」が何なのか、一言で説明するのはなかなか困難です。今回の展覧会でも、この時代の美術館が何だったのか、結論づけていません。
この時代を象徴する美術家をあえて一人あげるなら、日比野克彦さんでしょうか。自身の若々しさと、段ボールの軽やかな作品は、堅苦しい「美術」という枠を超えて、社会に広まっていきました。
「セゾン文化」に代表される商業的な潮流が強かったとはいえ、美術と社会の接近は、この時代の特徴のひとつです。日比野さんの名前も、同時代の美術家よりも、糸井重里、田中康夫、ホイチョイ・プロダクションなどと並べるほうが、しっくりするように感じられます。
同時開催の「コレクション2:80年代の時代精神(ツァイトガイスト)から」も、80年代の美術がテーマ。ここでは、70年代までの美術が「表現、解釈、制作」の放棄を目指したに対し、80年代はそれぞれが復権した、としています。あわせてご覧いただく事で、自分なりの「80年代の美術」が整理してみてください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2018年11月2日 ] |  | 1980年代
斎藤 美奈子 (編集), 成田 龍一 (編集) 河出書房新社 ¥ 1,944 |