本館にあたる大山崎山荘と、安藤忠雄氏が設計した地中館・山手館からなる
アサヒビール大山崎山荘美術館。まずは地中館の展示からご紹介します。
周囲の景観との調和をはかるため、半地下の構造で設計された地中館。円柱形のギャラリーには、モネ《睡蓮》をはじめ、ボナールやクレーなどが並びます。
モネが最晩年に邸宅を構えたのが、パリ北西のジヴェルニー。睡蓮の池などを設けたこの地は、画家としての旅の終着点といえます。
地中館の展示山手館は2012年に竣工した新しい建物です。元は温室があった場所で、山手館に至るガラス張りの廊下は温室までの通路として使われていました。ここも西洋絵画が紹介されており、ドガ、モディリアーニ、ルノワールなどが展示されています。
モディリアーニの特徴的な作風は、遠方から旅してきた古代ギリシアのカリアティド(女神柱)や、アフリカ彫刻などの要素をとりいれたもの。
ルノワールの《葉と果実の飾りのある若い裸婦》も、カリアティドからの着想です。印象派から離れた晩年の作品で、美しい裸体表現が目をひきます。
山手館の展示本館ではバーナード・リーチ、濱田庄司らの作品が展示されています。アサヒビールの創業者である山本爲三郎は、民芸運動の支援者でもありました。
東西を往来したバーナード・リーチは、その人生が旅そのもの。濱田庄司もイギリスや沖縄など窯業地を旅して、陶技を学んでいます。
朝鮮や日本各地にある無名の工人による日用雑器に光をあてたのは、浅川兄弟と柳宗悦。時間と距離を超え、多くの陶磁器が彼らのもとに旅してきました。
本館の展示企画展のご紹介はここまでですが、美術館最大の見どころは、登録有形文化財に指定されている大山崎山荘です。
ステンドグラスがはめこまれた階段、特注のタイルで彩られたバスルーム、桂川・宇治川・木津川が一望できる大テラスと、館全体が重厚感にあふれています。
大山崎山荘を建てたのは、実業家の加賀正太郎。自身が欧州に遊学していた事から、英国ゆかりのモダンな生活様式を目指して建てられました。
建物は戦後に加賀家を離れ、マンション建築計画にともなって取り壊される予定でしたが、地域住民が反対。アサヒビールが京都府・大山崎町と協力して山荘と庭園を買い上げ、美術館として再生しました。
美術館の本館にあたる、大山崎山荘美術館があるのは、明智光秀と羽柴秀吉による「山崎の戦い」で知られる天王山の山腹。最寄りのJR山崎駅までは大阪駅から30分弱。京都駅からも約15分と、アクセスは便利です。
駅からは徒歩10分程度ですが、やや急な坂道を上ります。駅から美術館までの無料送迎バス(ご高齢の方優先)も運行されています。美術館に駐車場はありませんので、ご注意ください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2016年4月8日 ]■アサヒビール大山崎山荘美術館 に関するツイート