目黒区美術館で、1992年から2004年まで5回にわたって開催されてきた「色の博物誌」シリーズ。これまでは「青」「赤」「白と黒」「緑」「黄色」と色そのものに着目してきましたが、今回は「江戸時代の豊饒な色材」がテーマ。幕府が諸藩に描かせた「国絵図」と、庶民が楽しんだ「浮世絵」という対照的な2点を取り上げて、江戸の色材に迫ります。
まずは国絵図から。幕府が各藩に描かせ献上させた絵地図で、各県の博物館や図書館にその下図や控え図が残されていますが、その巨大さもあってあまり展示される事はありません。
今回は岡山藩が制作した絵図を展示。慶長・寛永(備中と備前の2図)・元禄の各時代に描かれた4図と、元禄期の絵図を復元した作品が展示されています。
国絵図はいずれも、一辺が2~3メートル程の巨大な作品。地形はおおらかにデフォルメされ、鮮やかな彩色が印象的です。厚く被覆力のある色面は、粒子が際立つ不透明感のある無機系の色材が多用されています。
また復元にともなう調査で、絵図の制作には「えんぶた」というマスキングが行われてた事も分かっています。
第1章「国絵図」続いて浮世絵。浮世絵版画は1枚の価格が「ソバ1杯」ほどであり、まさに一般に向けて商品として制作された絵画です。
国絵図と違って浮世絵の色彩は紅花、藍、藤黄など植物系の染料が多用されています。、色は紙の繊維にからんで華やかに発色します。「錦絵」以降の浮世絵において、美しい色彩表現は最大の魅力ですが、植物系の染料は耐光性に劣るのが弱点。残念ながら美術館などで見る浮世絵は、当時の発色とはかなり違うものが少なくありません。
本展には、立原位貫(たちはらいぬき:1951-2015)が手掛けた浮世絵の復刻も紹介。立原は原料の色材にこだわり、オリジナルの色彩を再現する事に尽力しました。会場には江戸時代の作品と立原による復刻作品が並んだものもあり、その違いは想像以上。今まで浮世絵は何度も見てきましたが、ややショックを受けました。
第2章「浮世絵」展示室Cと展示ロビーでは、色材や画材、画法書についても紹介されています。
例えば同じ赤でも、鉱物系の弁柄(べんがら)や辰砂(しんしゃ)もあれば、紅花など染料系もあるように、材料はさまざま。現在も日本画で使われているものもあれば、浮世絵の色材のように衰退して製造方法も分からなくなってしまったものもあります。
貴重な資料として、江戸時代の絵具箱も展示。作品は残っていても、道具まで残ってる例はあまり多くありません。
現在でもデッサンの手引書があるように、江戸時代にも画法を記した書物がありました。土佐派は「本朝画法大伝」、ライバルの狩野派は「本朝画史」です。
第3章「色材」、第4章「画材」、第5章「画法書」会期中にはワークショップやセミナーなども開催されます。詳しくは公式サイトをご確認ください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2016年10月25日 ]■色の博物誌 に関するツイート