富山で開幕し、静岡、秋田と巡回してようやく首都圏まで来た千住博展。奉納される障壁画をはじめ、初期から現在に至る代表作で、40余年にわたる画業を振り返ります。
展覧会は「断崖図」のシリーズから。ゴツゴツとした岩の表情は、和紙を揉んで皺をつくり、そこに岩絵の具を流すという独特の手法です。初披露は、2009年ベネッセアートサイト直島の「家プロジェクト」でした。
続いて、千住さんの代表作といえる「瀧」シリーズ。実際に絵の具を上から下に落とす事で瀧を描くという、こちらも千住さんならではのオリジナル技法です。飛沫などの表現にエアブラシを用いるのも、日本画としては画期的な試みでした。
今回、障壁画が奉納される高野山金剛峯寺は、平安時代に空海が創建。現在の建物は1863年に再建されたものです。長年、白襖となっていた「茶の間」と「囲炉裏の間」のために、それぞれ《断崖図》と《瀧図》を描きました。
100年後、200年後も残る絵にするため、墨は一切使用せず、天然岩絵の具で描いています。黒く見える《瀧図》の背景も、岩絵の具の群青を焼いたもの。瀧の部分は胡粉を流し、瀧の水面や飛沫は、筆やエアスプレーで仕上げています。《断崖図》は和紙(雲肌麻紙)を揉んでベースをつくり、胡粉や焼群青で描画。水のスプレーで流したり、部分的にはプラチナを用いて表情をつけています。
展覧会では、幻想的な《龍神Ⅰ・Ⅱ》も大きな見せ場です。2015年に2回目となるヴェネツィア・ビエンナーレに出品したもので、蛍光塗料を使った瀧の作品です。照明が消えると、ブラックライトの効果で瀧は青色に。会場ではこの作品のみ、撮影が可能です。
会場後半では、1980年代からの千住さんの歩みを振り返ります。初期の作品には、今ではあまり見られない人物画も。20代前半で描いた暗い色調のビルシリーズも、近作とはだいぶイメージが異なりますが、当時はもっともしっくりするテーマでした。
「画業のやるべきことは全てここでやり切ったという気持ち」(千住さん)になったという、奉納襖絵。首都圏で見られる最後のチャンスです。会期は約1カ月と短めですので、ご注意ください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2019年3月7日 ]