ギリシア神話のアキレウス、ジャンヌ・ダルク、ベルばらのオスカルと、実在・フィクションを問わず、異性を装う文化は古今東西どこでも見られます。本展では浮世絵に描かれた異性装を通じて、江戸時代の風俗や文化の諸相を考察します。
まずは「風俗としての女装・男装」。俄(にわか)は吉原で8~9月頃に行われた行事で、芸者が町の中を練り歩きます。出し物の中で、しばしば異性装などが見られました。髪を男髷に結っているのが女芸者。この風俗は明治に入っても続き、明治21年の浮世絵にも描かれています。山王祭や神田祭の附祭(つけまつり:山車と山車の間で行われた出し物)でも、男装が見られます。
続いて「物語の中の女装・男装」。牛若丸や犬坂毛野(『南総里見八犬伝』の登場人物)らは女装、巴御前や板額(女武者)らは男装。異性装はストーリーの大きなポイントになっています。
第1章「風俗としての女装・男装」、第2章「物語の中の女装・男装」3章「歌舞伎の女形たち」と4章「歌舞伎に見る男女の入替」は、歌舞伎について。歌舞伎に女性が出演する事が禁じられたのは寛永6(1629)年。以来、歌舞伎の女形は、女装のスペシャリストとなっています。女形を演じる歌舞伎役者は、日常生活でも女性のように暮らす事が推奨されました。
歌舞伎では、通常は立役(男性役)が演じる人物を、女形が務める演目もあります。整理すると「男性を演じるのは女性役の男性」という、複雑な構造になります。
最後は「やつし絵・見立絵に見る男女の入替」。和漢の古典を当世風にした「やつし絵」や、ある物からある物を連想する「見立絵」にも、男女を入れ替えた作品が見られます。六歌仙や侠客として描かれた、当時の名高い美人たち。自由な発想で楽しい作品が次々に生まれていきました。
第3章「歌舞伎の女形たち」、第4章「歌舞伎の傾向に見る男女の入替」、第5章「やつし絵・見立絵に見る男女の入替」少なくとも、祭りなどの非日常や、歌舞伎や浮世絵などの表現では、男女の入れ替えが自由に受け入れられていた江戸時代。当時の風情が伺い知れる、貴重な展覧会です。会期は約3週間とかなり短いので、お早目にどうぞ。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2018年3月1日 ] |  | 江戸の女装と男装
渡邉 晃 (著), 太田記念美術館 (監修) 青幻舎 ¥ 2,484 |
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