初めて見た安藤さんの油彩画には、ぐっすり眠る赤ちゃんと毛糸の掛け物が画面いっぱいに広がっていました。赤ん坊の寝息、匂いが立ち込めています。
それ以上に小さな子供ながらも大きな存在感に、強さを感じたことを覚えています。

《ムービータイム》2021

一宮市三岸節子記念美術館。節子の生家にあった織物工場ののこぎり屋根をデザインした建造物
一宮市三岸節子記念美術館で安藤さんの個展がはじまりました。緻密に描きこまれた初期の油彩画や鉛筆画から近年の陶作品、木炭でのドローイングや新作の水彩画など60点が紹介されています。

展示風景 展示室1には初期の油彩画や鉛筆画が
本展にも出展されている《うさぎ》《パイン》《APE》の三部作で油彩での表現をやり切ったと感じた安藤さんは、瀬戸市への移住をきっかけに陶の制作を始めます。
すべてを作家自身がコントロールする絵画とは違い、陶には、土、火など自然の力が関わる…陶作の経験を通し、それまでとは異なる画風を発展させていきます。

《ニットの少女Ⅱ》2020年
陶レリーフの少女のまなざしは、子供が「初めてのもの」に出会ったときのようです。この少女は、安藤さんのお子さんでしょうか。でも実は安藤さん本人なのかもしれません。陶制作との出会い、表現幅の広がりを前に、これから先をじっとみているかのようです。

展示風景

左:《ネムイ》2020年 右:《ブルーハワイ》2020年
また水彩画は、和みを与えてくれます。毎日の暮らしの中でアッと思った一コマが描かれています。(安藤さんは描きたいと思う瞬間を写真に撮りためているそうです。)日常の些細な時間も愛おしく美しいものなのです。
初期の油彩画が分厚い皮張りの本だとしたら、水彩画はパラパラ漫画。画面の子どもたちが動いているようで楽しくなっていきます。

《ラーメン大好き》2020年

《シダ模様》2018年
安藤さんの画業をたどりながら、1本の大木をイメージしました。晴天や雪の日もあれば、鳥が枝に止まったり、実が赤く色づいたり、いろんな姿を見せてくれます。
一方で、どっしりとした幹には画家、母、妻など様々な要素が詰まっている…どの時期の作品を見ても安心感があるのは、この幹の強さとしなやかさなのかもしれません。

資料と小さな陶器作品も展示されている
駅に向かうバスの車窓からは木曽川が望めました。ゆったりとした広い川の風景は、見終えたばかりの展覧会と重なり、胸を大きく開かせてくれるのでした。

ミュージアムショップには、「おたのしみチャリティくじ」が。安藤さん作の小さな陶器

本展図録と陶作品(チャリティーくじであたった作品) 図録には瀬戸芸術祭に出展したインスタレーションや過去の展覧会の写真など近年の安藤さんの活動も知ることができる
[ 取材・撮影・文:カワタユカリ / 2023年7月8日 ]
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