誰もが知っている絵本画家のいわさきちひろですが、苦難に満ちた半生はあまり知られていないかもしれません。
ちひろの青春時代はずっと戦争のなかでした。最初の結婚に失敗、空襲で家を焼かれ、何もかも失ってしまいます。
人生のドン底で自分の生き方を模索していたちひろは、終戦の翌年、27歳のときに絵の道で生きることを決意します。これが映画のタイトル「ちひろ 27歳の旅立ち」になりました。
展示室1ちひろ美術館・東京は、ちひろが最後の22年間を過ごした練馬区下石神井の自宅兼アトリエ跡にあります。
ちひろは31歳で7歳半年下の青年と再婚(元衆議院議員の松本善明氏)。当初はちひろの画業が一家を支えており、ちひろが水彩の道を選んだのも、乾くのが早い=印刷に適している、ということも理由にあったといいます。
部屋ごと復元されているちひろのアトリエ展覧会では、ちひろが生きた証である作品や資料とともに、彼女自身のことばなども紹介し、絵の奥にあるちひろの想いも感じてもらえるように構成されています。
順を追って観ていくと、編集者の要求を忠実に受け入れていた初期から、独自の手法を確立していった時期、子どもの心を絵本で表現しようとした実験的な作品、平和への願いを込めて描いた作品など、クリエイターとしてのちひろのさまざまな一面を見ることができます。
展示室3増築を重ねたちひろ宅のイメージを残すように、放射状に伸びるような変わった構造の
ちひろ美術館・東京。
中庭が見える展示室4には、ちひろが愛用していたという緑色のソファがあり、来館者は座ってちひろの空気を体験することができます。
展示室4「モデルなしで10カ月と1歳のあかちゃんを描き分けることができる」といわれる驚異的なデッサン力は、母親として子育てをしながら子どものスケッチを重ねる中で体得していきました。
「こどものへや」を設けて、生まれて初めて行く「ファースト・ミュージアム」としての利用を促すなど、赤ちゃん連れにも優しい
ちひろ美術館・東京。女性の来館者が多いそうですが、その画力はぜひ男性も感じていただきたいと思います。男性用トイレにもベビーチェア・ベビーシートがあります。(取材:2012年5月29日)