印象派の重要人物にも関わらず、知名度があまり高くなかったギュスターヴ・カイユボット。理由は3点に集約されます。
①45歳で早世したため、作品数が少なかった。
②裕福だったために印象派を金銭面で支えたことから、画家としてではなく蒐集家としてとらえられた。
③都市情景の作品が多いカイユボットは「印象派=自然を素早い筆触で描く」のカテゴリに入りにくい。
印象派の一員でありながら、アカデミズム的表現も見られるカイユボット。その作品は近年になって大きな注目を集めるようになりました。
展覧会は自画像からスタートしますカイユボットの全体像に迫る本展。中でも印象派展への出展作品が多数展示されていることは特筆されます。カイユボットは、全8回行われた印象派展で5回出展しています。
メインビジュアルで紹介されている《ヨーロッパ橋》も第3回印象派展への出展作品。サン・ラザール駅の構内にかかる陸橋で描いたこの作品は、近代都市となったパリを象徴的に描いた1枚として、極めて高く評価されています。
ちなみにこの場所は、現在では
このような感じです。
《ヨーロッパ橋》1876年本展のサブタイトル「都市の印象派」にもあるように、カイユボットは都市の風景を描いた作品で知られますが、自然を描いた作品が無いわけではありません。
たとえばこちらは、イエール川でボートを漕ぐ男性を描いた一枚。水面の表現はモネの絵画を連想させます。
ただし、実はこの大自然も自分の敷地。カイユボットは11ヘクタールに及ぶ広大なイギリス式庭園を、夏の別荘地として使っていました。
《シルクハットの漕手》1877年頃展覧会の後半にはブリヂストン美術館が2012年に新収蔵した《ピアノを弾く若い男》も登場、こちらも作家の代表作のひとつです。
当時は上流市民のステイタスだったピアノ。ピアノを弾く人物を描いた作品はルノワールをなどもありますが、モデルが男性(弟のマルシャル)なのは珍しい例です。
会場には作中とほぼ同年代のエラール社製ピアノも展示。ピアノのロゴも含めて、カイユボットが忠実に描いていたことが良く分かります。
会場には作中とほぼ同年代のエラール社製のピアノも展覧会では、デジタル端末を利用した楽しい取り組みも2カ所で実施。1つ目はカイユボットが描いた地点を小型のタッチパネルで紹介するもので、作品と現在の地点を比べて見ることができます。
もう1つは、カイユボットをめぐる人々の紹介。こちらは大型ディスプレーで「カイユボットと家族」「印象派の仲間たち」の2コンテンツが楽しめます。
デジタル端末での紹介も多角的な視点からなるような作品は、セザンヌに先行していたともいえるカイユボット。また、極端な遠近法を用いた作品など、じっくり見ていくとかなり個性的な作品も目にとまります。
作品の多くは個人蔵ということもあり、海外でもそう頻繁には開催できないカイユボット展。巡回はしないため
ブリヂストン美術館だけでのお楽しみとなります。お見逃しなく。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2013年10月9日 ]