展覧会概要
改修工事で長らく休館していた豊田市美術館(愛知県)が、いよいよリニューアルオープンします。
リニューアルオープンを記念する今展では、“第1章「身体」を開く”、“第2章「日常」を開く”、“第3章「歴史・記憶・社会」を開く”、“第4章「まだ見ぬ世界」を開く”の4つのテーマに沿って、同館のコレクション約150点を全館で展示しています。
展示室によっては年代やジャンルが大きく異なる作品が隣り合っていて、戸惑う場面もありましたが、展覧会初日の6月1日(土)と翌日の2日(日)は入館料が無料ということもあり、家族連れで賑わっていたのが印象的でした。
展示室にて
“第1章「身体」を開く“
展示室に入ると、すぐ目の前に《不在との対話》(塩田千春)があります。
無数の赤い糸がつながれた白いドレスが壁にかかっています。
一見、抜け殻のようなドレスですが、赤い糸が流れ出す血液のようにも見え、ドレスの持ち主の「身体」がないことで、逆に「身体」を強く意識させられます。
周りにいた子供たちも興味を惹かれるようで、赤い糸に触れそうなほど近寄って作品を見ています。
「身体」とは?いきなり難しいクイズを出されたような気分です。
“第2章「日常」を開く”
手前の白い作品は《ホワイト・ディスチャージ(建物のようにつみあげたもの #10)》(金氏徹平)、中央は《レストラン・シティ・ギャラリー》(ダニエル・スペーリ)です。
どちらも、自分たちの身の回りにあるものを作品に取り込んでおり、それを見つけることがゲームのようで、見ていて楽しい作品です。
白い作品は、表から見たときに元の素材がわからなくても、反対側に回り込むことで気づくことがあります。
立体作品を見る時のコツ(作品の周囲を回って見る)を、なにげなく教わっているようです。
2階の展示室に移動する途中、階段の壁面にも作品があります。今日は一日中、どこもかしこも賑やかです。
“第3章「歴史・記憶・社会」を開く”
奥側《廃棄される新聞、自然、蝸牛の体のうちに、空間の力として継起する螺旋がある》(マリオ・メルツ)、右側《ぼろぎれのヴィーナス》(ミケランジェロ・ピストレット)、手前側《解剖学3》(ジュゼッペ・ペノーネ)です。
いずれもアルテ・ポーヴェラ(貧しい美術)の著名な作家の作品です。
思わず、触って感触を確かめたくなるものもあります。
大人でもそうなので、子供ならなおのことでしょう。
作品の方へ走り出しそうな子供の手を、あわてて引き留める親子もいます。
ちなみに《ぼろぎれのヴィーナス》の前に積まれている衣類はすべてイタリア製だそうです。
機会があれば(おそらく、なさそうですが)、すべて洗濯し、畳んであげたいと思います。
“第4章「まだ見ぬ世界」を開く”
最後の展示室内には《おかあさんに心配しないでといって (6)》(ライアン・ガンダー)があります。
1mほどの切り株に白い布をかぶせたような形状の作品を見ると、「まだ見ぬ世界」とは誰にとっての世界なのだろうと、疑問が湧きます。
ここまでの作品では、観客(見る主体)と作品(見られる対象)の関係性にあまり疑問を感じませんでしたが、この作品を前にすると、観客である自分が見られる対象になった、感覚が逆転する違和感を覚えます。
冒頭の白いドレスを見て存在しない身体を想像し、最後の白い切り株のような作品を見て存在しない視線を感じる、興味深いアート体験をしました。
今展は、充実したコレクションの総覧に留まらず、見えない世界を垣間見せてくれる、刺激的な展覧会でもあると思います。
閑話休題
今回のリニューアルでは、レストラン&カフェも内容を一新していました。
新しいお店の名前は「味遊是(ミュゼ)」といい、ヤマザキマザック美術館(名古屋市)の地下にある「壺中天」(ミシュラン、1つ星)が運営しています。
ランチの時間帯は、混雑が予想されるので、多少時間をずらしたほうがいいかもしれません。
当日は、美術館庭園で「MUSEUM MARKET(お庭でマルシェ)」も行われており、たくさんのハンドメイドショップやキッチンカーが出店していました。
快晴に恵まれ、こちらも展示室に負けないくらい賑やかでした。
以上
エリアレポーターのご紹介
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ひろ.すぎやま
近現代美術、演劇、映画をよく見ます。
作品を見る時は、先入観を避けるため、解説などは後から読むようにしています。
折々に、東海エリアの展覧会をレポートしますので、出かけていただく契機になれば幸いです。
名古屋市美術館協力会会員、あいちトリエンナーレボランティア。
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