石内都さんといえば広島平和記念資料館に遺された被爆者の遺品を撮った《ひろしま》シリーズが浮びます。
現在、入江泰吉記念奈良市写真美術館で開催中の「布の来歴―ひろしまから」にもその作品たちはありました。
その中には、放射線が黒いかすり柄の部分を貫き、焦げた跡が生々しいブラウスの写真作品があります。
見るからにショッキングな事実を前にする反面、着物を仕立て直しブラウスにする手仕事の跡や、母の愛情を彷彿させる事実も含まれています。
デザインの豊かさや触れてみたくなる布の質感などに、柔らかい気持ちになりかけた時、慌てて「正しい人」として被爆者の遺品に向き合わなければと、どこから湧いてきたのかと思えるモードにスイッチが入ってしまいました。
日本人として、現代人として歴史的事実と向き合うことに必死になってしまったのでした。
百々俊二さん(同館館長・写真家/左) 石内都さん(右)
カメラは手持ち、35ミリフィルム、そして自然光。それが、石内さんの撮影のスタイルだそうです。
記録性、ドキュメンタリー性を嫌い、モノを撮るのではなく、被写体と会話しながら撮影すると話されます。
「写真には石内都がへばりついている」と百々俊二館長が表現するように、「印画紙に自分の生き方を定着させるかのように」作品を作り上げていくそうです。
《ひろしま#74/hiroshima#74 Donor.Satou,A》(手前) 《ひろしま#73/hiroshima#73 Donor.Abe,H》(奥)
撮影された衣服には、それらを纏っていた人の声や匂い、毎日の暮らしぶりが滲んでいるかのようです。
今、私たちが毎日を生きるように、これらの衣服を身につけて生活していた人も存在したという当たり前のことに気づかされます。
そして彼らの日常の先に「戦争」がありました。
本などで知る歴史的事実は1つ1つの情報として頭に入っていますが、実際は日常とつながっていたし、つながっている、つながっていくもの、足元にあることに気づきます。
《ひろしま》を撮り始めて、布や着物から色々なことを教わったと石内さんは話します。
それらを私も知りたい。そのためには、まず知らぬ間に身につけてしまった色眼鏡などを取り払う必要がありそうです。
《a.chiyo #6》(左) 《a.chiyo #5》(右)
《Rick Owens’ Kimono N1 #5》
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カワタユカリ
美術館、ギャラリーと飛び回っています。感覚人間なので、直感でふらーと展覧会をみていますが、塵も積もれば山となると思えるようなおもしろい視点で感想をお伝えしていきたいです。どうぞお付き合いお願いいたします。
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