130年以上の歴史を有するフィラデルフィア美術館。メトロポリタン美術館、ボストン美術館と並ぶ米国有数の美術館で、浮世絵も4,000点以上所蔵しています(もっとも欧米の大きな美術館は、たいてい浮世絵を何点か所蔵しているそうです)。
フィラデルフィア美術館の浮世絵は常設では展示されず、日本への里帰りもこれまでは一部の作品のみ。まとまった形で日本で紹介される初めての機会となりました。
浮世絵の展示は、会場中ほどの展示室4から(会場前半は三井記念美術館所蔵の工芸品などです)。最初は錦絵以前の浮世絵として、墨板で摺った版画に筆で彩色する「丹絵」「紅絵」「漆絵」や、板で着色する「紅摺絵」が紹介されます。
第Ⅰ章「錦絵以前」そして、いよいよ錦絵の登場です。これまでできなかった色彩表現ができるようになった、木版による多色摺。錦織物のような美しさから「錦絵」と称されました。
錦絵を大成させたのが、鈴木春信です。錦絵はざっと130年後の明治半ば(小林清親など)まで続いたので、日本美術史の中でも極めて重要な出来事といえます。
華奢で可憐な女性像で、すぐそれと分かる春信の作品。本展では前後期あわせて30点、前期だけでも16点の春信作品が揃いました。
第Ⅱ章「錦絵の誕生」春信によって始まった錦絵は爆発的に広まり、多くの絵師が競うように作品を世に出していきました。
鳥居清長は八頭身美人の群像図、喜多川歌麿は大首美人画、そして東洲斎写楽はデフォルメされた役者の大首絵で人気を博しました。
ちなみに近年の研究で、写楽の東洲斎は「とうしゅうさい」ではなく「とうじゅうさい」と濁る事が分かってきたため、本展のキャプション(ローマ字表記)も濁音で表記しています。
第Ⅲ章「錦絵の展開」19世紀に入ると錦絵はさらに成熟。退廃的な美人画の渓斎英泉、武者絵や戯画・風刺画の歌川国芳、そして風景画では葛飾北斎や歌川広重が名作シリーズを発表しました。
有名な北斎の「赤富士」こと《富嶽三十六景 凱風快晴》も出展。赤富士は世界中で100点以上現存しますが、本作は紙が断たれずに端まで残り、摺りも木版の木の目の跡まで残っており、状態の良さではトップクラスの逸品です。
会場最後には上方の錦絵も。浮世絵の主流は江戸でしたが、京都・大坂でも浮世絵は作られました。役者の表現や摺りの技法など、江戸とは異なる独特の手法がとられています。
第Ⅳ章「錦絵の成熟」、第Ⅴ章「上方の錦絵」デリケートな浮世絵の展示のため、会期は前後期でほぼ全作品が入れ替わります(前期は7/20まで、後期は7/22から)。リピーター割引もありますので、前後期ともお楽しみください。
東京展の後は静岡展(
静岡市美術館:8/23~9/27)、大阪展(
あべのハルカス美術館:10/10~12/6)に巡回します。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年6月19日 ]