「小豆三粒包める布は捨てるな」と、古裂一枚、屑糸一本無駄にせず再利用していた暮らしを想像できるでしょうか。破れれば幾重にも継ぎを当て、刺し縫いで補強した着物。布片を何枚も接ぎ合わせた布団皮。擦り切れた木綿は細く裂き、短い残糸は繋いで織にかけ、再び布に蘇らせました。
こうした徹底したリサイクルやリユースの手間と工夫は、大量生産が浸透する以前、生活のあらゆる面で発揮されていました。念入りな補修の跡が残る菓子木型や染型紙のほか、酒や醤油を購入する際に酒屋が貸し出した通い徳利などに、物を愛しみ長く使い続けることを美徳としたありようが見て取れます。木工品の副産物として考案された練物の人形や、反故紙から生まれた張子など、廃棄する材料を用いて再生させた例もあります。金継ぎの技術はもはや修理の域を越え、物に新たな趣を加えるクリエイティブな行為にまで発展しました。近年では、繕いを重ね何世代にもわたり着回した襤褸が、海外でもBOROとして脚光を浴びています。一方で、端裂には古来より人知の及ばない力が宿ると信じられ、布を寄せ集め継ぎ合わせて仕立てた着物に、幼子の幸せを託す風習が日本各地にありました。
湯浅八郎は「慎ましやかな生活が生んだものに、美しさがある驚き」と、自らの愛蔵品のひとつである屑織の背景にある精神の豊かさを高く評価しました。物の価値は時代によって変わることがあるでしょう。しかしその尺度とは別のところに物の生命はあるのではないかと、資源を最後まで大切に使い切る先人たちの営みは問いかけてきます。
国連がSDGs(持続可能な開発目標)を採択して10年。物を尊びその寿命をまっとうさせることに心を砕いた手仕事の数々が、「サステナビリティ」の意識をさらに醸成するきっかけとなれば幸いです。