明和2年(1765)に多色摺木版である「錦絵」の技法が完成して以降、浮世絵は目覚ましい展開を見せます。特に、寛政(1789~1801)から天保(1830~44)年間にかけては、次々と人気絵師が登場し、その美と技を競い合ったまさに浮世絵黄金期です。本展では、日本有数の良質なコレクションとして知られる神戸在住の中右瑛氏の膨大な蒐集品から、黄金期を支えた、東洲斎写楽(生没年不詳、活動期:1794~95)、歌川広重(1797~1858)という四大絵師の役者絵、美人画、風景画など約170点を厳選して紹介します。
強烈なデフォルメで役者の一瞬のしぐさを劇的に捉え、わずか10ヶ月の活動で忽然と姿を消した謎の絵師・写楽。女性の理想美と色香を写して一斉を風靡した写楽のライバル・歌麿。奇抜な発想と圧倒的な画力で絶えず江戸っ子たちの度肝を抜いた視覚の魔術師・北斎。そして、日本風土の美しさを追求し、四季折々の自然風物やそこに生きる人々の姿を詩情豊かに謳い上げた広重。四大スターの代表作が一堂に会するまたとない機会であり、特に写楽の役者絵が20点も並ぶ機会は希少です。
浮世絵は単純に「鑑賞」するためだけのものではなく、人気役者のブロマイドでもあり、旅行用のガイドブックでもあり、評判の店のチラシでもあり、最新の時事や流行を伝える新聞・雑誌でもあり・・・今の我々がインターネットやテレビから情報を得るのと同じような感覚で、江戸の人々は浮世絵に親しみました。「絵」としての美しさだけでなく、江戸の町の華やかな賑わい、そして我々の大先輩でもある江戸の人々がどう暮らし、何を考えていたのかをのぞき見るような気分で鑑賞していただければ、浮世絵がとても身近に感じられるのではないでしょうか。