スペインによる制服以前のメキシコには、アガベ・テキラーナとは異なる種のリュウゼツランの樹液を発酵させて作られた酒・プルケが存在しており、タバコとともに神への供物として、あるいは宗教儀式などに欠かせない重要な飲み物として利用されていました。16世紀以降、この地にやってきたスペイン人たちは、さまざまな新しい文物を持ち込んできましたが、そのひとつが、8世紀初頭から1492年までの間にイベリア半島を支配していたイスラム教徒から習得した蒸留技術でした。テキーラは、こうしたメキシコ原産のアガベ・テキラーナと先スペイン期の酒造りの知識が、スペイン人の技術と結びつくことにより生み出されました。つまり、先住民文化とスペイン文化との融合の結果誕生した「メキシコ文化」を代表するもののひとつといえます。
今回の展示では、テキーラの歴史、その製造工程を、製造用具などの資料、写真やビデオなどを通して紹介します。また、現代のメキシコ人芸術家たちが、テキーラ、あるいはアガベ・テキラーナを題材として本展のために制作した絵画や陶芸作品などのほか、さまざまな形・意匠のカバジートと呼ばれるテキーラ用のグラスなどを展示し、メキシコの小さな町で誕生したテキーラが、現在のメキシコの人びとによって自分たちの誇るべき文化として親しまれている様子を概観します。さらに、2006年7月にユネスコの世界遺産として新たに登録されたテキーラ町を中心とした地域に広がるアガベ・テキラーナ・ウェーバー・アスルの栽培・耕作地の壮大な風景を、写真やビデオ映像を使って紹介します。