素朴派の画家といわれる作家たちの中から、この度フランスの画家アンドレ・ボーシャン(1873-1958)と、アメリカの画家グランマ・モーゼス(1860-1961、本名アンナ・メアリー・ロバートソン・モーゼス)の二人展を開催する運びとなりました。正規の美術教育を受けていない素朴派の画家たちの中でも、特に画業を始めるのが遅かったこの二人の共通点は、日々の生活を愛し、日常と画業とが密接であったことです。
アンドレ・ボーシャンはフランス、ロワール地方の町シャトー=ルノーに生まれ、44歳にして初めて絵筆をとるまでは苗床を栽培する人でした。第一次大戦を機に画業を開始し、1921年のサロン・ドートンヌに初出品した折、建築家として名高いル・コルビュジエらピュリスムの面々に才能を見出されます。晩年はロワール河沿いの町モントワールに移住し、そこで画業を続けました。ボーシャンは神話画も多く手掛けますが、身近な植物を取り上げた作品は彼の絵画の神髄といえるでしょう。
一方グランマ・モーゼスは、アメリカンフォークアートの最も知られた画家の一人となりました。1927年に刺繍絵と絵画を本格的に始め、それは101歳に至るまで続きます。モーゼスは彼女の暮らしたヴァージニア州とニューヨーク州の農村風景を題材とし、そこに広がる幸せな日常を描きました。80歳の時に初めての個展が開かれて以来、その描かれる光景の身近さゆえに、彼女は親しみをこめて「グランマ・モーゼス(モーゼスおばあちゃん)」と呼ばれるようになりました。
平凡な農夫の妻であったモーゼスと、精神を病んだ妻のため森の中で暮らしたボーシャン。共に人生の中に喜び、楽しみを感じ、描いた彼等の世界を約70点の作品を通してお楽しみください。