日本の長い歴史文化の中に伝えられてきた着物。その繊細にして大胆な意匠の美しさは、その奥にある大切なものを現代の私たちに語りかけ魅了します。過去から受け継がれてきた着物一つひとつの織りや染め、意匠には、歴史や風土、自然と暮らしの中で培われてきた日本人の細やかな技と感性が息づいています。個々の素材、色、文様にはそれぞれの歴史的意味や作り手の思いや美意識が込められているのです。そして、大切に扱われ、時を経て深みを増した着物には、持ち主たちの人生の一節一節が吹き込まれ、現代の私たちの消費生活では味わえない、ぬくもりが感じられます。使い捨てに慣れた私たちが忘れてしまった、ものを慈しみ、大切にする心。これらも伝統美とともに歴史の中で培われてきた和のこころを表すものといえましょう。本展は、着物や風呂敷のコレクターとして知られる三瓶清子氏の膨大なコレクションより、日本の伝統美とぬくもり、和のこころを伝える貴重な逸品を選りすぐってご紹介するものです。
【着物】
600年以上の歴史を持つ「からむし織り」(福島県重要無形文化財)の貴重な着物をはじめ、実用性と装飾性を兼ね備えた庶民の仕事着、鮮やかな晴れ着や、健やかな成長への願いを込めた子供着、機能美あふれる前垂れなど、着物の中に息づく和のぬくもりと美をご紹介いたします。
【百徳着物と古袱紗】
百徳は子供の健やかな成長を願い、長寿のお年寄りや健康な子供のいる家などから端裂(はぎれ)をもらい歩き、それを接ぎ合わせてわが子の着物を作る、金沢の風習です。三瓶さんは、膨大な「はぎれ」のコレクションを「創作」することで後世に残そうと試みました。百徳着物を作ることで、親が子を思う心を次世代に伝え、また袱紗のシンプルな形のなかに、日本の染織文化の多様性と深さを美しく蘇らせました。
【風呂敷】
身体を包む着物と同様、日常のありとあらゆるものを包む風呂敷は、それ自身は軽くて、折り畳めば小さく収納できる便利なものです。また、日本独自の歴史や、風土、生活様式に育まれ、伝統的な美意識を伝える貴重な文化といえます。本展では、普段の生活で使われたものをはじめ、婚礼などに使われた祝い風呂敷の華やかな世界をご紹介いたします。