常設展示室をもたない目黒区美術館は開館以来、折々にテーマを定めての「所蔵作品展」の形式でコレクションを紹介してきました。その第一回目は、1987年に開館から二番目の展覧会として開催した「意味の足し算」。所蔵作品を二点一組で提示することで、ひとつひとつの作品、一組の作品が隣に置かれることで生まれる意味をさぐりました。その後も、学芸スタッフが順番に担当しつつ、時には借用作品で補強し、あるいは新収蔵品の紹介をまじえながら、さまざまなテーマに取り扱ってきました。
今回の展覧会は、こうした試みの上に構想したもので、所蔵作品の中から選んだ作品を4つのキーワードから出発して楽しんでいただくことを目指しています。第一キーワードは「物語」。作品テーマとして語っている物語、語っているかもしれない物語、作品をめぐって美術館が紡ぐ物語を取り扱います。二番目のキーワードは「細部」。作家によって周到に準備された細部、偶然によって生まれた細部にフォーカスをあてて、立ち現れた「作品」との関係を探ります。三番目は「美術史」。作家と作品が、それをとりまく世界との間に結んだいくつかの関係性を、美術の歴史の中で、そして社会や時代の中に探してみます。最後のキーワードは「快楽」。意味、その背後の言語や思考とは別に回路で、「作品」の中に身体と直結したやり方で生まれる視覚の「快楽」がその出発点です。
これらの、4つのキーワードは「とりあえず」「恣意的に」選ばれたものに過ぎません。これらの「キーワード=主題」による「変奏」として提示した作品も、それぞれが「変奏」として仮の役割からさまざまに逸脱してゆくでしょう。展覧会全体もまた、美術館という仕組みが集めて、さまざまな情報とともに示すひとつの「物語」に違いありません。作品と作品の間におかれたこの「物語」から逸脱し、異議を差し挟みながら、幾重にも重なった「作品」そのものの魅力へと歩みをすすめていただければ幸いです。