黒のモノローグ：タイラーグラフィックス・アーカイブコレクション展 Vol.19

　黒という色は、色彩そのものを打ち消す存在であると同時に、すべての色を内に秘めたものでもあり、古くからわたしたちを惹き付けてきた不思議な力を持っています。 　喪服に代表されるように、ネガティブな意味を表わすものとしてとらえられることが多い黒ですが、だからこそ、この色が芸術作品において、とくに単独で用いられるときには、人間の本質を内省的に問うような表現が可能になります。あるいは視覚的な効果という意味で、イメージの形や線描そのものをストレートに伝えたいような場合には、あえて色彩を排し、黒一色で描くことは有効な手段の一つです。色彩豊かな作品が、音楽、歌、台詞などさまざまな要素が絡み合って壮大なドラマを演出するオペラのようなものだとすれば、黒一色の作品は、一人芝居でのモノローグ（独白）のようなものだととも言えます。華やかさはないですが、シンプルさゆえの力強さ、深みといったものを感じさせる点が、黒で描かれた作品の魅力であり、色彩の氾濫する現代にあってもなお多くの作家がこうした表現を好む理由の一つでしょう。 　彼らが黒という色に込めた思いに耳を傾けていただければ幸いです。