和紙を縮らせて婦人の髪型を作り、千代紙で衣装を着せた紙人形を一般的に「姉さま」人形と呼びます。姉さまは、雛人形などの飾って楽しむ人形に対して、女児が日常のままごとなどに使う手遊び人形として古くから親しまれてきました。江戸時代、文化12(1815)年刊の『骨董集』(山東京伝著)には…今の世の女童、ひいな草を採りて髪を結い、紙の衣装を着せなどして平日の玩具とす。これもいと古きことなり…とあり、江戸時代の少女たちが草などで姉さまの髪型を作って遊んでいた様子が伺えます。こうした人形は、手足がない上、目鼻を省略したものも多く、大変素朴なものですが、幾種類もあった女性の髪型を覚えたり、それにあわせた衣装を着せたりして遊ばれました。
日本人形といえば、「雛人形」など静かに飾られる鑑賞用のものが目立ちますが、女の子たちが持ち遊ぶ愛玩用の抱き人形や手遊び人形もまた、日本の人形文化をよく伝えます。これらの人形が繰り広げる遊びの世界には、「着せ替え遊び」あり、「ままごと遊び」あり、「ごっこ遊び」あり、人形を中心とした模倣遊びを通して、女児たちは、人や物に対する愛情を育て、衣食住に関する文化を学び、暮らしの中の夢をたどりながら、社会性を身につけていきます。
今は、ほとんど廃絶してしまった日本各地の姉さまや人形ごっこ用の首人形、江戸から昭和にかけて愛された市松人形や三つ折人形、大正から昭和に流行した文化人形を経て、昭和30年代のバービーやタミー、40年代のリカちゃんまで、様々な時代の資料を通して、少女たちを夢中にした人形遊びの世界をたどります。