ユートピア　—描かれし夢と楽園

　誰しも夢や希望に想いを馳せたり、世俗を離れて楽園に遊びたいと願うことがあります。それはたとえ儚き幻想であるとしても、人々のこころには、ひとときの安らぎが訪れ、日々の暮らしに豊かな潤いを与えてくれましょう。だからこそ「夢」や「楽園」への期待は高く、とても自由だといえます。そして人それぞれに異なる“ユートピア”は、超現実的であるがゆえに、美術では無責任なほど脚色され、華麗に彩られながら表現されてきました。 　古典文学にみる物語や詩歌の世界、夢の中で花園に遊んだり、蓬莱山では伝説の仙人に出会ったりと、空想する喜びと楽しさは尽きることがありません。こうした心地よき快楽への誘いを、美術の世界は、古くより“ユートピア”のテーマとして表現してきました。主題をより理想像へと近づけて表現することで、作家たちは、実体を超えるほど魅力的な画面に仕上げていったのです。 　虚実行き交う「夢」と「楽園」。“ユートピア”というちょっと奇抜なテーマの下、絵画・工芸の優品約60件、出光コレクションを中心に他館の名品も交えて芸術の秋をご堪能いただきます。