当館では、フォト・ジャーナリズム史に伝説として名を刻み、現在もパリとプラハを拠点に世界的な活動を続けるジョセフ・クーデルカの展覧会を開催します。1938年、チェコスロバキア(現在のチェコ)に生まれたジョセフ・クーデルカは、1968年8月に起こったワルシャワ条約機構軍のプラハ侵攻「チェコ事件」時、団結して兵士に抵抗した市民の攻防を写真におさめました。しかし、“プラハの春”と呼ばれる変革運動が終焉を迎え、ソ連が導く共産主義へと「正常化政策」が敷かれる中では、これらの写真は国家から許される記録ではありませんでした。そこで、これらの写真はプラハの写真史家とスミソニアン博物館の学芸員等の手によって秘密裏にアメリカへ持ち出され、当時のマグナム会長エリオット・アーウィットを経て、翌1969年「プラハの写真家」という匿名者によるドキュメントとして発表。写真家の名を伏せたまま、ロバート・キャパ賞を受賞しました。クーデルカがこの写真の作者であると名乗りを上げることができたのは1984年、彼の父親がチェコで亡くなった後のことでした。東西に分断された欧州や冷戦下の政治的状況を顕したこれらのエピソードは、20世紀の伝説となり、世界中のジャーナリストたちによって語り継がれています。本展覧会では、クーデルカが2008年に出版した『Invasion68Prague』より173点を出展。突然、街を埋め尽くした戦車に人力で立ち向かったプラハ市民の勇気ある記録をクーデルカの臨場感溢れる写真から振り返り、当時の市民に起きたことをいかに自身の身に引き寄せ、私たちの未来の歴史の糧とするかを検証するものです。