1930年代の芸術活動では、人間の内面や深層心理への関心の高まりとともに、形式や造形の先端的新しさだけでなく深化が求められ、個々の表現も醸成されます。また各芸術ジャンルとも、より広い人々に受け入られる方向性を志向しました。また、関東大震災からの復興渦中の東京では多くの文学者や美術家が新たな生活と創造の拠点を求めて郊外へと移り住み、都市と郊外生活を結び付ける文化も育まれ、消費経済の拡大をみた時代でもあります。1932年に誕生した「世田谷区」も例外ではありませんでした。1936年の砧村、千歳村の編入によりほぼ現在の姿を形成した世田谷区は、緑豊かな農耕地と多摩川流域の自然を残す一方、鉄道網の発展や教育機関の展開、都心からの移住増加も相まって現在に通じる郊外住宅地として発展し、そこに居を構えた作家たちの制作の場となり、作品の背景ともなります。さらに映画撮影所が作られ、新たなスタイルの映画作品も生み出されました。
本展覧会は、世田谷文学館と世田谷美術館がこれまでに収集してきた、1930年代に世田谷で活動した作家たちの作品、資料を核に構成します。8つの芸術文化ジャンルに表われる時代の感性や特徴を通して、世田谷を含めた東京西南郊外で営まれた生活文化の様相も視野に促えながら、拡大する首都=東京の文化活動を「郊外」という角度から検証する試みです。