展示風景
横浜の仏像を紹介する初めての展覧会が開催されています。50年に渡る調査の結果、明らかとなった新発見や初公開される仏像の数々。知られざる仏像の姿に触れることができる貴重な機会です。
展示は、飛鳥時代に始まり、奈良、平安、鎌倉、南北朝と時代を下り6章で構成。仏像は実に様々な表情や形をしています。
バランスが崩れクスっと笑ってしまうもの、ため息が出るほど美しいものなど、個性豊かに展開していく様子が見てとれます。その中から、注目ポイントをご紹介します
珍しい飛鳥時代の仏像
展示風景 Ⅰ仏像史の曙光
仏像の歴史が始まる飛鳥・奈良時代を曙光と題しました。飛鳥時代の仏像は、ほとんど残っていませんが、幸い横浜には存在します。ただ、最初から横浜にあったかは定かではありません。
素材はこの時代に多い金剛仏、赤い敷物は、銅の仏像の隠れサインとなっています。
横浜最古の風格ある菩薩像
菩薩立像 平安時代 光明寺(横浜市南区) 横浜市指定有形文化財
存在感のある形が目をひきます。横浜市に現存する仏像の最古の木彫像です。手や足が失われていますが、バランスの良さを感じさせます。立ち姿、足の角度などギリシアの古代彫刻が浮かびました。
特殊なジャンルの仏像が横浜にも
釈迦如来立像 鎌倉時代 真福寺(横浜市青葉区) 重要文化財
清凉寺式の衣文が美しい仏像。離れていても存在感に圧倒されます。
近づくと細やかな同心円の襞が規則正しく連なって見えます。水紋が広がり、滝に流れ落ちるようです。衣文線がゆらいで、吸い込まれそう。さらに近づくと、ノミの跡に見える模様は、木目でした。
釈迦如来立像(部分)鎌倉時代 真福寺(横浜市青葉区) 重要文化財
縄状の頭髪も清凉寺式の特徴です。また 瞳に銅板が張られていると考えられておりました。展示後、研究者の指摘により、本体の材から掘り出されていることが、判明しました。耳たぶの横皺など特別な仏像であることが示唆されます。
メインビジュアルの仏像ですが、衣文はデザインとしても魅力的。会場内のサインや、図録の表紙、章扉に利用。カバーの拡大写真は、デザイン性だけでなく、仏師がノミを振るう手の動きや、息づかいまで伝えます。
河津町から横浜へ?
地蔵菩薩坐像 南北朝時代 林際寺(静岡県賀茂郡河津町)
今回、横浜の仏像展ですが、伊豆河津町の林際寺からもおでましです。
きっかけは、伊豆の上原美術館の調査により、体内から銘文が発見。そこには制作年、作者の朝栄、かつて横浜金沢の能仁寺(廃寺)の、ご本尊であったことなどが記されていました。寺外初公開で里帰りを果たすことができました。
地蔵菩薩坐像(体内)林際寺
地蔵菩薩坐像(像内墨書銘)林際寺
足を組んだ右の脛あたりの衣のくぼみにも注目です。これは、右手に持っていた錫杖(柄の先に輪がついた杖)が衣にあたった状態を表現しています。
また像の下部側面や正面に見られる割目は、以前、法衣垂下(衣の裾を台座にかけて長く垂らす)だった下部が作り変えられた跡です。
足元を見つめ直そう
仏像と言えば京都や奈良が主流ですが、地元で受け継がれてきた仏像に着目するという展覧会は昨年、神奈川県立歴史博物館でも行われました。またコロナ禍によって、美術館では所蔵作品に目を向け、足元から発信していく動きも見られます。
地域からの発信が新たな価値を創造し、それが波及して繋がりあう。そんなネットワークが過去や、未来に見えてきそうです。
[ 取材・撮影・文:コロコロ / 2021年1月22日 ]
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