“阪神間モダニズム”の一角を担う「白鶴美術館」は知る人ぞ知るアートスポットです。 神戸住吉山手駅から高台に向かい住宅街を進むと、巨石に館名が刻まれた門が開いています。一風変わった寺院風建築の「白鶴美術館」です。
堂々とした門構えの本館入口
鬼瓦や蟇股など風格ある寺院建築風
酒処神戸灘の地に根付く白鶴酒造の七代嘉納治兵衛(鶴翁)が、古稀を記念して設立した美術館で、幼少の頃から古美術に親しみ、相当な数に及んだ蒐集品を広く公開しようと開館されました。
所蔵品の中心は中国と日本の古美術品で、現在国宝2件、重要文化財22件を含む約1450点に至るコレクションとなっています。平成7年に新館が完成し、貴重な中近東の絨毯のコレクションが展示されます。
展覧会チラシ
今日は2021年春季展の「大きな美術と小さな美術」を鑑賞しました。小さく軽く実用性に富んだ工芸品から模様に迫力が出る大きな鑑賞用工芸品など、その“大きさ”という要素に注目してみようという企画展です。
鶴の意匠が様々なところに見られます
まずは擬宝珠付き高欄が廻縁する重厚な風格を持つ本館へ。入口から展示室へ続く渡り廊下は白漆喰に囲まれひんやりとした感じです。釣り下がった照明に「鶴」の姿を発見しました!注意してみると鶴をかたどった意匠がいくつも見られます。探してみてください。
1F-展示室
蛤形銀盒子
たどりついた展示室はど~んとした講堂のような空間です。1階の天井は折り上げ格天井、落ち着いた艶やかな木材の渋い色で全体が包まれ、整然と並んだ展示ケースの中に美術品がちょこんとあります。一番初めに出会うのが《唐草文蛤形銀盒子》。
蛤をかたどったお化粧道具は本当に貝殻のような小ささと軽さ、表面にはびっしりかつ伸びやかな文様装飾がみられ、現代の私達のバッグにも入っていそうな可愛さです。
2F天井画にも33羽の鶴画
2階の天井は白漆喰の格子天井。いました!飛鶴です。東洋の工芸を代表する盒子、銀盤、香炉、壺などその鍍金や透かし彫りの緻密な装飾技巧は決して派手ではありませんが様々な神話空想上の動物や仙人などをかたどり縁起の良いものが好まれたのでしょうか。
景徳鎮窯の作品は艶やかな色彩の魚が楽しそうに泳ぐ姿も愛らしい限りです。(会期中入れ替えのある出品あり)
鍍金龍池鴛鴦双御魚文銀洗 重要文化財 中国 唐時代
五彩魚藻文壺 景徳鎮窯 中国 明時代
瀟湘八景図画帖(一部) 祥啓筆 重要文化財 日本 室町時代
青銅博山炉
さて、次に道を挟んで向かい側の新館を訪ねます。
新館外観
本館とは対照的にコンクリートの無機質な建物は絨毯という特殊な所蔵品を丁寧に保存、公開しています。
ケルマーンーラヴァール (一部)ペルシア南部 19世紀後半
一部アップ
大きな絨毯と小さな絨毯 ペルシア中央部
白鶴酒造十代目嘉納秀郎氏の中東絨毯コレクションで、イスラム文化圏の生活や信仰を表す模様もその地方により異なるものがあることがわかります。私など「ペルシャ絨毯」という言葉しか知りませんでしたが、素材もシルク、ウールがあり染められた糸で巧みに模様を織っています。
メダリオンと呼ばれる文様(メダル形)やメッカに礼拝するためのミフラーブ(アーチ形)など、鳥や動物が隙間なく織り上げられた美術品にも用途に応じて大小がありました。
モダンな内装がお洒落な空間を生む(本館)
本館外観
白鶴美術館は初めから美術館を目的として建てられているので、通路も幅が広く柱も少ない構造です。湾曲した階段てすりや踊り場壁面の装飾などはオリエンタルモダンな感じがして寺院城郭風な外観に軽やかさが加わります。
昭和の名建築は登録有形文化財(本館)で大きく開いた窓からは木洩れ日が入り、講座時などに利用される講堂からは港町・神戸灘の景色が見え気持ちよい風が通ります。通年公開されない理由は空調がないからだそうで、気候のよい春と秋のみ公開されるということです。
現在コロナ感染防止対策として入口にて検温、消毒とマスク着用が必要ですが予約制ではありませんので、このここちよい春の日にアート散歩にお出かけください。
建築好きの方にはすぐ近くの乾汽船創業者の旧個人邸宅(限定公開)やレストランの蘇州園、芦屋にはヨドコウ迎賓館などもあり、公開日をよく調べてお勧めしたいところです。
館内は静かでさほど集中する日もないそうですが、展覧会にあわせて講演会やワークショップ、レクチャーなどが多彩に企画されているので参加できればより充実した鑑賞ができます。
次回秋季展は9/23~開催予定で、青銅の工芸品がテーマだそうです。
アート鑑賞の余韻は神戸屋キッチンで
坂をくだり疲れを癒してくれたのは「神戸屋キッチン」でのティータイム。パンの香りする居心地よいお店でした。
※特別の許可を得て撮影しています。
[ 取材・撮影・文:ひろりん / 2021年3月10日 ]
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