改めて「悪」に対する関心の高さが証明されたといえる前回展。今回も極悪非道の面々が、太田記念美術館に揃いました。
会場は4章立てですが、1章「悪人大集合」がメイン。さらに1章は 1.盗賊、2.侠客、3.浪人、4.悪僧・悪の医者、5.悪の権力者・悪臣、6.悪女・女伊達、7.悪の妖術使いに分け、会場1~2階で紹介されます。
2章「恋と悪」と3章「善と悪のはざま」が会場地下、4章「言葉としての悪」は2階です。
冒頭の畳のコーナーは、章を超えたダイジェスト展示。歌川国芳《相馬の古内裏》は「がしゃどくろ」として知られますが、左にいる滝夜叉姫が悪人。妖術で骸骨を出し、国家転覆を目論むこの女は、平将門の娘とされる伝説の妖術使いです。
会場 1階個性的な悪人は、庶民の娯楽だった歌舞伎に欠かせない存在でした。悪役の役者絵を見ると、主役と対峙する構成だけでなく、悪役だけを描いた役者絵も数多く作られているなど、人々は悪を求めていた事が分かります。
「悪役の役者絵」という事なら、ぜひ覚えていただきたいのが、五代目松本幸四郎。目つきが鋭くて鼻が高く「鼻高幸四郎」と呼ばれた五代目幸四郎は、悪役を演じれば天下一品。多くの浮世絵師が、その個性的な風貌を描きました。
「言葉としての悪」では、善と悪の戦いなど。心の中で善と悪が争うという表現は、現代のマンガやアニメなどでもしばしば見られます。後期展示では、悪玉が主人公を吉原まで連れていく作品も。いつの時代も、男は色街に弱いものです。
会場 2階「恋と悪」の代表格は、八百屋お七。火事の避難先で出会った小姓と恋仲になり、もう一度会いたいと願うあまり放火の大罪を犯し、火炙りの刑に。悲しい悪女といえるでしょう。
侮辱を受け続けた善人が、我慢の限界を超えて殺人鬼になるのも、歌舞伎にしばしば見られるパターン。逆に、悪人が最期に善行をして死んでいく例もあります。善と悪は対立構造ではなく、表裏一体の関係にあります。
会場 地下現在でも某大臣、某理財局長、某大学の監督など、「悪」とされた人がテレビや週刊誌には次々に登場します。悪が絶えないのではなく、悪を求める心が絶えないのかもしれません。
展覧会の関連事業として、太田記念美術館をはじめとした都内7施設で「悪」をテーマにした展覧会やイベントが開催されています(東洋文庫ミュージアム、國學院大學博物館、ヴァニラ画廊、国立劇場伝統芸能情報館、国立演芸場演芸資料展示室、銀座 蔦屋書店)。相互割引もありますので、詳細は
公式サイトでご確認ください。
※展覧会は前後期で全点が展示替えされます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2018年6月1日 ] |  | 江戸の悪
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