「日本の染色アートを世界に発信する」ことを目的に2006年に誕生した染・清流館。世界初の染色専門の美術館です。同館が現在開催しているのは、染色作家・八幡はるみ個展「宇宙を言祝ぐ」。ビルの6階にある175㎡のスペースは、熱い空気が充満しています。
展示風景
本展は、八幡はるみの軌跡を90年代から最新作までの作品を通して辿ります。目を引く色彩、エキゾチックなデザイン。活き活きという形容詞がハマる作品たちが、会場を彩っています。八幡さん自身が綴ったキャプションから彼女が何を思いどう作品に取り組んだかなどがわかり、より彼女の世界へと誘われます。
展示風景
ちょうど30年前、染・清流展(1990年から始まった染色作品を紹介する展覧会)に出品したのは、染料も染色技法も使っていない《水のトンネル》という作品。「型」「版」を使用することで、染色作品の枠として括ることができると考え、制作されました。
《水のトンネル》(左隻) 1992年
また「染め」に改めて向き合ったという《空間に在るもの》は、これでもかこれでもかというほどに様々な技法で覆いつくされています。八幡さんは、これらの初期の作品を見ながら、技法や素材、美術と工芸の関係など彼女自身が「領域に区切られていることを強く意識していた」と振り返ります。
縦縞を一本ずつ染め全体のバランスなどを無視し、つなぎ合わせた《―縦模様プリント布 Jomon‘97-》。絞り染めのように糸で縛らず、布に凸凹をつけて溝に染料を流し込むという新しい技法「シェイプド・ダイ」への取り組み。そしてデジタルを用いた作品。
挑み続ける様は、環境や固定観念、時代に抗うと同時に、伝統を守るだけではなく、現代・未来へと「染色」を繋げ広げていこうとの深い意思の表れです。
《―縦模様プリント布 Jomon‘97-》(部分) 1997年
《Shangrila》 2009年
もともとファッションにも興味があった八幡さん。染色の魅力の一つは「着るものに転用できることだ」と言います。アートとしての作品制作と並行し、アロハシャツやトートバッグなど実用性のあるものを手掛けていることも彼女の経歴の中の注目すべき点でしょう。
浴衣《パズル》 2015年
《Kaleidoscopic》(部分) 2017年
近年は、染色に限らず、ジャンル分けが難しい作品に多く出会うようになりました。そのたびに少し戸惑い、こびりついた既成概念に邪魔されることもあります。「染色」と聞いても、古いイメージが付きまとうのが本音です。
八幡さんの30年間に渡る創作の軌跡は、鑑賞者である私たちにも柔軟さをもって作品を見る、知る、考えることの大切さを教えてくれます。生命力に満ちた作品は、これからへと導いてくれるのです。
展示風景
最新作《熱帯》 2022年
展示風景
[ 取材・撮影・文:カワタユカリ / 2022年1月22日 ]
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