
会場風景
2024年Ginza Sony Parkでの「sakamotocommon」、そして東京都現代美術館での「坂本龍一|音を視る 時を聴く」展の余韻をまだ感じる中、大阪ではじめての坂本龍一の展覧会が始まりました。

川上フォーン 1970年制作/2013年修復
入口すぐの広い空間ではバシェの音響彫刻が存在感を放っています。これらは1970年の大阪万博のために作られたものです。18歳の坂本は1970年の万博を訪れ、大きな影響を受けたといいます。そしてバシェにも出逢いました。

Après Baschet RS001 2018年制作 坂本龍一が所有していたバシェ

映像『Ryuichi Sakamoto: Playing the Baschet』 撮影・編集 高谷史郎 録音 東岳志 2020年12月撮影
2000年以降、坂本は「音」と「響き」を重視するようになります。作曲するのではなく、音そのものの中に音楽を発見するように変化していきます。その流れで1970年万博で出会ったバシェの音響彫刻を思い出します。 その後、バシェを演奏し録音する機会を得、演奏する姿は映像(本展ではその一部を見ることができます)としても残されています。坂本/バシェ/万博の3点が、万博が今まさに開催されている大阪でつながる、奇跡のような展示といえるでしょう。本人が保管していた1970年の万博の入場券、大学時代の学生証やそのころの楽譜、スナップ写真など貴重な資料なども展示されていて、見どころが満載です。

会場風景

坂本龍一+Zakkubalan《async–volume》2017年 「sakamotocommon OSAKA 1970/2025/大阪/坂本龍一」VS.、2025年
会場では坂本龍一の気配を随所で感じることができます。 長年愛用したグランドピアノには彼の演奏データが組み込まれており、自動演奏で音が流れます。「aqua」「Merry Christmas Mr.Lawrence」など聞こえてくる音が優しい。また《async-volume》(空音央とアルバード・トーレンのユニットZakkubalanと坂本龍一の作品)のiPhoneとiPadに映されたスタジオや庭、リビングには、坂本が「居る」ことが確信できます。会場を巡り、徐々に彼の存在が大きくなる反面、鑑賞者は、自分自身にも意識を向けていきます。

坂本図書 分室
この展覧会は、坂本龍一の作品を振り返るだけの場ではありません。音が体を通り抜け、記憶や感情を呼び起こし、これまで触れてこなかった世界にもふと意識が向かっていきます。展示を巡るうちに、自分自身の内側で何かが反応し、目覚めていくような――そんな時間が流れていきます。

©“Ryuichi Sakamoto:Diaries”Film Partners
また今回は坂本が残した日記を軸に、亡くなるまでの3年半の日々にせまったドキュメンタリー映画「Ryuichi Sakamoto:Diaries」を特別に観ることができました。死と向き合い、音を追いかけたそのままの姿が映し出され、人の最期についても考えさせられました。全国公開は11月28日から。こちらもぜひご覧ください。

坂本龍一+高谷史郎《LIFE–fluid, invisible, inaudible...》2007年 「sakamotocommon OSAKA 1970/2025/大阪/坂本龍一」VS.、2025年

会場VS.の外観
[ 取材・撮影・文:カワタユカリ / 2025年8月29日 ]