印刷博物館「天文学と印刷 新たな世界像を求めて」
文 [エリアレポーター]
新井幸代 / 2018年10月19日
一般的な展示室よりも更に暗いであろう中を進んで行くと、スポットライトに浮かび上がる書物たち。
その中には、「書物芸術史上最高傑作の1つ」とも言われる貴重本もあり、「天文学と印刷」という企画展タイトルと相まって、さながら闇夜に瞬く星の煌きのような存在感です。
展示室入り口
ハルトマン・シェーデル『ニュルンベルク年代記』1493年
天文学と印刷という、一見無関係に思える2つを組み合わせた展示内容への期待感も高まります。
展示内容は天文学を主として、それぞれの分野が発展するターニングポイントになった図版が取り揃えられています。
執筆者はコペルニクス、ケプラー、ガリレオ、ニュートンなど、有名どころです。
また、自著の下絵・活版の書体の開発、印刷まで行った天文学者たちも取り上げられていました。
現代のように専門職に分かれていなかったため、何でも自分でこなすマルチクリエイターのような学者が多くいたというのは意外でした。
図版というだけあって、ふんだんに使われている図も見所の1つです。手彩色の鮮やかなもの、多色刷りを駆使したもの、付録つきとも言えるような星座盤のように回転させて使う惑星運行の計算盤が組み込まれたものなど。
ブラウ<中国図>1650年頃
ペトルス・アピアヌス『皇帝の天文学』1540年
使用された銅版画には、アルブレヒト・デューラーや司馬江漢といった画家によるものもありました。
美術館で特集されたとしても展示に加えられることは少ないであろう、本業とは違った一面が垣間見られるのも、本展ならではと思いました。
司馬江漢<天球図表>1796年、80-10.<天球図裏>1796年 他
また、複製本の作製・展示と、想定再現での表組みの組版が展示されているところが本博物館ならではと言えましょう。
左/レギオモンタヌス『天文暦』(参考)表組み組版
星と星を結びつけて目には見えない星座を思い浮かべるように、天文学などの学術書をつなぎ浮かび上がってきたものは、印刷の発展により著者の思考が容易に伝えられるようになったお陰で学術的発展が加速した近代科学の歴史でもありました。
普段何気なく見上げることの多い夜空の星ですが、本展観覧後は天文学者の面影を感じながら眺めるのも良い体験かもしれません。
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