「2025年大阪・関西万博」の会場デザインプロデューサーを務め、いま、最も注目される日本の建築家の一人である藤本壮介(1971-)。個人住宅から大学、商業施設、ホテル、複合施設まで、世界各地でさまざまなプロジェクトを展開している藤本にとって初めてとなる大規模な個展が森美術館で開催中です。
8セクションで構成された会場では、活動初期から世界各地で現在進行中のプロジェクトまで、藤本の約30年にわたる活動を網羅的に紹介していきます。

森美術館「藤本壮介の建築:原初・未来・森」会場入口
最初のセクションは「思考の森」。300平方メートルを超える空間には、活動初期から現在計画中のものまで、藤本が携わった合計116ものプロジェクトを紹介する大型インスタレーションを展開。

1 思考の森
藤本建築には、閉鎖的な境界線が外部に開かれる「ひらかれ かこわれ」、空間の用途や性質が曖昧で多義的な「未分化」、一つの建築が多くのパーツで構成される「たくさんのたくさん」の特徴があり、時に1つのプロジェクトの中で複数が融合していることもあります。
模型や素材、スケッチなどの作品の合間を縫いながら会場の奥へと足を進めていくと、藤本建築の根幹をなす三つの系譜をたどることができます。

1 思考の森
2つめのセクションでは、藤本が東京大学を卒業した1994年以降の活動を年表で振り返ります。藤本の活動のほか、国内外の建築家の主要な作品や動向、藤本が影響を受けた建築作品を取り上げ、藤本建築の歴史的文脈を読み解くことができます。
会場には読書の場であり、同時に休憩所にもなる「あわいの図書館」も設けられました。ブックディレクターの幅允孝が、5つのテーマに基づいて選書した小説、漫画、絵本、写真集など、計40冊が並びます。それぞれの椅子には、その椅子に置かれた本から抜き出された言葉が添えられています。

3 あわいの図書館

3 あわいの図書館
5つ目のセクションでは、2025年大阪・関西万博の《大屋根リング》とそのコンセプトである「開かれた円環」に焦点を当てています。
高さ約20メートル、幅約30メートル、全長およそ2キロにおよぶリングは、会場では約5分の1のサイズに縮小して展示されています。さらに、藤本が構想段階で描いたスケッチや記録写真、設計図面のほか、リングで用いられている貫接合技術を紹介するモックアップやインタビュー映像も展示され、リングの構造や思想を多角的に掘り下げています。

5 開かれた円環

5 開かれた円環
「ぬいぐるみたちの森のざわめき」では、藤本が手がけた9つの建築作品が、ぬいぐるみとなって登場します。《ラルブル・ブラン(白い樹)》や《太宰府天満宮 仮殿》など、各プロジェクトの特徴や設計の背景について、ぬいぐるみたちがテーブルを囲んで対話するインスタレーションです。
展示空間の外側には、藤本が日々描いているスケッチの中から、東京藝術大学在学中から2017年頃までのものをセレクトして紹介しています。

6 ぬいぐるみたちの森のざわめき

藤本壮介によるスケッチの数々
「たくさんの ひとつの 森」では、2024年にコンペで選出され、藤本が基本設計を手がけている音楽ホール兼震災メモリアル《仙台市(仮称)国際センター駅北地区複合施設》を紹介しています。「たくさんの/ひとつの響き」をテーマとするこの建物は、15分の1スケールの大型吊り模型によって、その構造を体感することができます。
このほかにも、約70点におよぶ主要プロジェクトのコンセプト・ドローイングが並び、藤本建築の全体像を多角的に捉えることが可能です。

7 たくさんの ひとつの 森
最後のセクションでは、藤本壮介とデータサイエンティストの宮田裕章によって考案された「未来都市」が描かれています。
大小さまざまな球体状の構造体が複雑に組み合わさったこの未来都市は、高さ約500メートルの範囲に収まり、住宅や学校、オフィスなど、生活に必要な施設が備えられています。無数の球体群は多方向に開かれ、人々が多層的に関係を築く新たなコミュニティの形成が意図されています。 両者のコラボレーションならではの発想が、模型と映像を通じて表現されています。

8 未来の森 原初の森—共鳴都市 2025
「2025年大阪・関西万博」は10月13日まで、展覧会は11月9日までご覧いただけます。両方を訪れて、藤本壮介の建築の極意にじっくりと浸ってみてはいかがでしょうか。
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 / 2025年7月1日 ]