名高い“最後の大どろぼう”が出かけた隙を狙い、来場者自らがその邸宅に忍び込む…。ユニークな設定の展覧会が、東京・立川のPLAY! MUSEUMで開催中です。
歴代どろぼうの肖像画や変装道具、そして謎めいたコレクションが配された8つの部屋をめぐり、果たして、この家から無事に脱出し、主人の正体を突き止めることができるでしょうか。

PLAY! MUSEUM「大どろぼうの家」会場入口
会場は「緑の回廊」からスタート。ここには伝説のどろぼうたちが一堂に集結! 石川五右衛門やモナ・リザ泥棒のペルージャ、児童文学のホッツェンプロッツ、絵本の三にんぐみ、さらには泥棒の名を持つ恐竜ラプトルまで、古今東西の“名うてのどろぼう”が並びます。
それらの肖像画は、ユーモアたっぷりの筆致で伊野孝行が描き下ろし。きらめく金貨の山とともに、大どろぼうの世界観が鮮やかに立ち上がります。

緑の回廊
続く「青の応接間」は、大どろぼうの知識の泉。建築や鍵の構造、警備の抜け道、身体の使い方まで、彼が学び尽くした書籍がずらりと並びます。棚には変装道具も整然とディスプレイされ、探究心と几帳面さが垣間見える空間です。
さらに、この部屋には大どろぼうが“引退”を決意した理由も潜んでいるとか。ディレクションはブックディレクターの幅允孝が手がけています。

青の応接間
「赤の隠し部屋」には、祖父・父・孫の三世代にわたる収集品がずらり。どろぼうにまつわる資料や絵本、キャラクターグッズなどが、床から天井まで埋め尽くすように展示されています。
どこか懐かしくもあり、見れば見るほど味わい深いこの部屋は、大どろぼう一族の“収集癖”を感じさせる異空間です。

赤の隠し部屋
「白の小部屋」は、静謐な空間。酒井駒子やさくらももこら人気作家の原画・作品が、美術品として丁寧に展示されています。
一歩足を踏み入れれば、大どろぼうの意外な美意識と、静かな感性が伝わってくるはずです。

白の小部屋
詩的な空間「銀の庭」では、宇宙に憧れたロマンチストのどろぼうが、谷川俊太郎の詩を“盗み”、庭に仕立てました。テーマは「星」「旅立ち」「言葉の輝き」。
谷川賢作の音と詩の朗読が響く幻想的なインスタレーションは、心をそっと揺さぶります。

銀の庭
「黒の壁」では、カラスが集めた片方だけの靴下が、壁一面にディスプレイ。理由は“あたたかい家を作るため”という、どろぼうらしからぬ優しい動機。
不揃いな靴下の数々は、どこか愛嬌があり、見る者にクスッと笑いと不思議を届けてくれます。

黒の壁
「トリコロールの廊下」では、大どろぼうが“後継者育成”のために絵本作家・ヨシタケシンスケを盗み出し、絵本制作を依頼したという設定の展示が展開。
ところが、できあがった絵本は想定外の内容で、むしろ大どろぼう自身が感動してしまったとか。展示されている原画からは、ヨシタケ作品ならではのウィットと温かさが伝わってきます。

トリコロールの廊下
展覧会のクライマックスを飾るのは「光の蔵」。ここには、大どろぼうが愛した“ガラクタ”や“偏愛品”が、光とともに美しく収められています。
また、どろぼうを目指す子どもたちのための“どろぼうジム”も併設。赤外線をくぐり抜けてお宝を狙う、スリル満点の仕掛けが待っています。ディレクションは新井風愉が担当しました。

光の蔵

光の蔵
想像力を刺激する設定と、ユーモアと詩情に満ちた演出が詰まった「大どろぼうの家」。PLAY! MUSEUMならではのユニークな体験型展覧会は、大人も子どもも主役になれる特別なひとときです。この夏、家族や友人とともに“物語の中に忍び込む”ような冒険を、ぜひ体験してみてください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2025年7月27日 ]