1968年(昭和43年)に皇居新宮殿が完成した時、錚々たる日本画壇の巨匠たちの作品が飾られました。
これらの作品を目にする機会に恵まれた山﨑種二は、より多くの人たちにも同じような作品を見てほしいと願い、安田靫彦、山口蓬春、上村松篁、橋本明治、東山魁夷、杉山寧らに、同様の作品を依頼し、現在ではそれらが山種美術館の所蔵となっています。
本展ではこれらの作品に加え、天皇の手になる書や宮家ゆかりの品々が公開されました。
《竹に鶴蒔絵硯箱》(明治時代)
こちらの硯箱は、昭和天皇の皇后である香淳皇后にお仕えした女官が歌会始に入選した際、お手元にあったものを拝領したそうです。
鶴の親子が描かれた蒔絵の箱は、上品で縁起の良いデザインです。
硯の擦り減り具合から、皇后がご愛用の品を下賜されたことを知ることができます。
青山御所では御寝殿の杉戸(襖)絵を、小堀鞆音、川合玉堂、竹内栖鳳らが描きました。
本展ではこれらの下絵と伝えられる作品の展示もありました。
いずれも鮮やかな色彩で、四季折々の風景の中に愛らしい動物たちが生き生きと描かれていました。
下村観山《老松白藤》 大正10年 山種美術館
また、宮家旧蔵の屏風の数々も見事でした。
こちらの下村観山《老松白藤》は、松の木の一部を大胆に切り取りとった構図の中に絡まる繊細な白藤を配した美しい作品です。
この画面の中に熊蜂が一匹飛んでいるので、ご覧になられる際にはぜひ探してみてください。
ホバーリングしている熊蜂の一瞬の動きをとらえた秀逸な描写です。
東山魁夷《満ち来る潮》 昭和45年 山種美術館
東山魁夷はゆったりとした朝の引き潮の海を描いた宮殿の壁画に対して、山﨑種二が依頼したこちらの作品は岩にしぶきが当たった力強い波を表現しています。
この作品には緑青、群青、金、プラチナが贅沢に使われています。
遠くからこの絵を観ると雄大な海を眺めているような気分になりますし、近寄ってみると金やプラチナの美しさを見出すこともできます。
©公益財団法人 JR東海生涯学習財団 左から山口蓬春《新宮殿杉戸楓4分の1下絵》昭和42年 山種美術館 橋本明治《朝陽桜》 昭和45年 山種美術館
春の桜、秋の紅葉は多くの芸術家たちが描く画題で、日本らしい自然の美しさを表します。
正殿松の間東廊下には、左右に蓬春と明治の杉戸絵が並んでいるそうです。
上村松篁《日本の花・日本の鳥》昭和45年 山種美術館
四季の花々と鳥を描き、扇面に散らしたこちらの屏風はとても愛らしい作品です。
上村松篁は自宅にたくさんの鳥を飼い、日々の観察の中で鳥の可愛らしい仕草を研究したそうです。
戦前の日本には、皇室の保護のもとに優れた日本美術を奨励し、顕彰する目的で設置された帝室技芸員という制度がありました。
帝室技芸員に任命されることは美術家や工芸家にとって大変名誉なことでした。
柴田是真《墨林筆哥》 明治10~21年 山種美術館
その一人、明治23年に任命された柴田是真は、漆工芸では海外でも人気のある工芸家でしたが、画家でもありました。
こちらは漆で描かれた作品です。
扱いが困難で漆を用いて限られた色彩による表現でありながら、ユーモラスで観る人を思わず笑顔にさせてしまいます。
この他にも、黒田清輝や梅原龍三郎の作品もありました。彼らもまた帝室技芸員と認められた芸術家たちでした。
宮殿を彩った数々の芸術家、工芸家の作品、そして帝室技芸員たちの名作の数々は、文字通り日本を代表する美の創造を感じさせる作品群でした。彼らの描く日本の自然の美をじっくりと楽しめる展覧会でした。
エリアレポーターのご紹介
|
松田佳子
湘南在住の社会人です。子供の頃から亡き父のお供をして出かけた美術館は、私にとって日常のストレスをリセットしてくれる大切な場所です。展覧会を楽しくお伝えできたらと思います。
|
エリアレポーター募集中!
あなたの目線でミュージアムや展覧会をレポートしてみませんか?