江戸時代初期の本阿弥光悦と俵屋宗達に端を発する琳派の系譜。豊かな装飾性で人々を魅了し、直接の師弟関係ではなく、作品への私淑によって大きな潮流を成していきました。
本展は光悦・宗達に始まり、江戸中期の尾形光琳・乾山兄弟、そして江戸後期の酒井抱一・鈴木其一まで、江戸時代全般にわたる琳派の諸相をサンリツ服部美術館の所蔵品で辿る企画です。
会場は時代順の構成で、第1章は「京の町衆 光悦と宗達」。《四季草花下絵新古今集和歌色紙帖》は、宗達が四季の草花を描いた色紙に、光悦が「新古今集」の和歌を書写した合作で、書・画ともにのびのびとした作風が見ものです。

第1章「京の町衆 光悦と宗達」
第2章は「光悦の時代のやきもの 織部と志野」。桃山時代に生まれた織部焼と志野焼は、それまでのやきものには見られない自由な表現が特徴。織部焼を指導した古田織部は、光悦とも交流がありました。
第3章は「琳派の時代のやきもの 樂茶碗」。千利休が茶の湯のために考案した樂茶碗。樂家は琳派とは縁が深く、光悦は自ら樂茶碗を制作したほか、樂家五代の宗入は尾形光琳・乾山兄弟の従兄弟にあたります。

第2章「光悦の時代のやきもの 織部と志野」、第3章「琳派の時代のやきもの 樂茶碗」
琳派を大成させた尾形光琳・乾山兄弟は、第4章「雁金屋の兄弟 光琳と乾山」で紹介されています。光琳は絵師、乾山は陶芸家として知られますが、ここでは光琳と乾山の絵画を並べて紹介。きちっとした光琳《牡丹図》と、ゆったりとした乾山《秋山図》の対比がユニークです。
第5章は「江戸の琳派 抱一と其一」。光琳が没して100年も経ってから、その気風を継承したのが酒井抱一。《紅白梅図屏風》は紬のように荒い絹地に、たらしこみなどの技法を駆使した優美な作品。抱一の弟子である鈴木其一の《茶筅売図》は、枝に茶筅を挿して売り歩く姿を伸びやかに描きました。

第4章「雁金屋の兄弟 光琳と乾山」、第5章「江戸の琳派 抱一と其一」
サンリツ服部美術館が誇る国宝《白楽茶碗 銘 不二山》は、展示室最奥の独立ケースでされています。
本阿弥光悦が娘を大坂に嫁がせた際に、支度の代わりに精魂込めて制作した茶碗。下半分が黒く変色しているのは焼成中の偶然で(本来は全体が白くなるはずでした)、この姿から、雪を頂く富士を連想するとともに、二つと無い出来ばえのため、銘「不二山」となりました。
わずか二点しか無い国宝和物茶碗のひとつ(もう一点は三井記念美術館所蔵の「卯花墻」)。優雅な佇まいと同時に、へらで整形された側面はがっしりとした趣で、力強さも感じます。門外不出の逸品のため、サンリツ服部美術館でしか見る事ができません。

本阿弥光悦 国宝《白楽茶碗 銘 不二山》
近年のサンリツ服部美術館では、国宝《白楽茶碗 銘 不二山》が秋に展示される事が多かったため、今回は夏休みいっぱい展示される貴重な機会となりました。上諏訪駅から徒歩15分、これを見ずに本阿弥光悦は語れません。
同館内にある服部一郎記念室では、ルノワールやシャガールなどフランス近現代絵画を紹介する「カンヴァスに見いだす美」展も開催中です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年7月27日 ]
※前期(7月18日~9月13日)と後期(9月15日~11月15日)で一部展示替えがあります(書画のみ。国宝《白楽茶碗 銘 不二山》は通期で出展されます)
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