写実主義の巨匠。その生まれ故郷-
ジャン=フランソワ・ミレー、オノレ・ドーミエと並んで、レアリスム(リアリズム)の代表的画家とされるギュスターヴ・クールベは、1819年フランス北東部のオルナンに生まれました。三人の妹とともに、一人息子として恵まれた時期を過ごし、野山を駆け回る少年が徐々に画家を志すようになります。
あるがままの「自然」と共に
20歳でパリに出たクールベは、独学で修業を重ねました。従来の画風を踏まえながらも、「自然」こそが師であったとのちに述べているように、事実に基づく斬新なモチーフによって、独自の「今」、そして「ここ」を描き出してゆきます。大作《オルナンの埋葬》や《画家のアトリエ》は当時の画壇に物議を醸しましたが、風景画を中心に徐々に高い評価を得るようになります。
束の間の成功
1859年には「レアリスムの祝宴」が開かれ、クールベは世間に名を知られるようになります。しかし、パリ・コミューンへの参加とその崩壊が、晩年のクールベの様相を一転させました。逮捕、禁固、略奪、財産没収、病気。精神的・身体的に追いつめられた日々が続きますが、その合間にも、刑期を終えて帰郷したオルナンで、また亡命先のスイス・レマン湖で、多くの風景画を残しています。
本展では、オルナンの生家をそのまま美術館としたクールベ美術館より、初期から晩年に至る風景画が中心に出品されます。希望に満ちた少年を育み勇気づけた故郷の自然は、数十年を経て、傷つき病んだ画家を包み込むレマン湖ほとりの自然として、再びクールベの内に宿ったと言えます。レアリスムの真意は、スキャンダラスな事件を彼方に見越して、クールベの内にこそ、常に「永遠の今」として息づいていたに違いありません。