わたしたちは、どれだけロダンの芸術を同時代のフランス美術の流れに即して見ることができているのか。今回の展覧会では、この問いに応えるかたちで、ロダンの作品のなかから画家ウジェーヌ・カリエール(1849-1906)の芸術と呼応するものを選択して並べ、その芸術を同時代の象徴主義とのかかわりにおいて再検討します。
もう一方のカリエールについては、19世紀末から20世紀はじめにかけて、象徴主義を代表する画家として、批評家や画家たちの間で尊敬を集め、同時代の画家たちに強い影響を与えていました。しかし、その後の象徴主義そのものへの批判や無関心から、本国フランスにおいてさえ長らくその存在は忘れられていました。
1996-97年、ストラスブールとサン=クルにおいて期せずして同時に開催された『ウジェーヌ・カリエール』展は、カリエールの芸術に再び光をあて、象徴主義をめぐる同時代のフランス美術史を再構築する機会を与えるものとなりました。今回、ロダンの作品と並べることにより、同時代におけるカリエール芸術の意義が改めて検討されるでしょう。
今回の展覧会では、1880年ごろ、セーヴルの陶器工場で始まり、カリエールの死まで続くロダンとカリエールの交流を軸に、両者の作品に見られる親近性をとらえていきます。輪郭線を曖昧にして限られた色調で構成されたカリエールの作品は、しばしばロダンの大理石やブロンズ彫刻との関連性が指摘されるうえ、題材の選択(共通人物をモデルとした肖像や同じ文学的興味から発した主題など)などに、両者に共通の傾向が読み取られます。
ロダンとカリエールだけに焦点を絞った展覧会は、世界的に見てもこれまで例がありません。今回、この二人の偉大な芸術家の作品を並べることにより、一般の方、美術史に深い造詣のある方を問わず来場される人々に、新たな発見をもたらす機会となると考えるものです。
現在国立西洋美術館には、松方幸次郎が収集したコレクションとして多数のロダン彫刻と2点のカリエールの絵画が所蔵されています。これらの彫刻や絵画を松方コレクションに含めた背景には、フランスにおける美術品収集の顧問を務めていたレオンス・ベネディットの意図が働いていました。リュクサンブール美術館やロダン美術館の館長を務めていたベネディットが、1920年代のフランス美術界から松方のために選択した作家には、ロダン、カリエールのほかアマン=ジャンやコッ e、メナール、ダルデやサン・マルソーなど19世紀末から20世紀初頭にかけての象徴主義の文脈に位置する作家たちが多く含まれています。今回の展覧会は、こうした性格を持つ松方コレクションが基点となっており、国立西洋美術館での開催にふさわしい内容といえます。